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紫陽花の彼女【M・Tさんへ】

※随分と前に書いたのですが、遅くなりました。

拝啓
今年も紫陽花の季節がやってきましたね。
今日は、あなたが多分知らない「紫陽花の秘密」と感謝を伝えたくてお手紙を書きしました。

2022年の初夏、当時小学校3年生の息子は、私と二人で歩いていた通学途中に紫陽花を見つけ「あれ?カタツムリがいる」と驚きました。
私は「当たり前よ。カタツムリと言えば紫陽花でしょう?」とため息をつきました。

なぜなら、息子のこういう突発的な発言は、学校の担任の先生から「授業妨害」と言われ、付き添い登校を頼まれることになったからです。

息子にせがまれて、その場ですぐにスマートフォンで検索すると、紫陽花の葉には毒があり、カタツムリは決してその葉を食べないことがわかりました。たまたま紫陽花の季節にカタツムリが出てくることが多い、それが真相だったのです。

その夜でした。そこまで親しくもなかった隣のクラスのあなたからメッセージラインが届いたのです。
さりげなく私を気遣うあなたのメッセージに安堵し、私はこれまでの出来事を一気に告白してしまいましたね。

思い込んでいたことが実はそうではないこともある、ということを息子に教わった日、私に初めての味方ができたのでした。

その後も、通学路に咲く紫陽花に見守られながら、私は必死に「息子によく言い聞かせますので」と、学校に理解を求めました。それでも発達障害児扱いをされたことは、あなたもまだ覚えているでしょう?

その後、息子が学校に出した抗議文を読んだあなたは、「論理的すぎる」と言いました。私には衝撃でした。なぜなら息子の文章は、いつもと何ら変わらない文章だったからです。

私は紫陽花の秘密を知った日のことを思い出し、「ただのワガママではないかもしれない」と、自分が大きなとんだ間違いをしたかもしれないことに焦りました。

そして知能検査を受けてみると、やはり私とあなたの考えは的中しましたよね。
落ち着きがない息子と思い込んでいたけど、実はそうではありませんでした。
思考は大人なのに情緒が幼児という特性を持ち、幼いゆえ故、好奇心で衝動が抑えられないだけだったのです。

そこでついに私は、家庭で実体験を元に学ぶという、アメリカ式の「ホームスクール」を始めました。
例えば、料理を手伝いながら、計量カップで算数の単位を覚えたり、野外学習をメインにしていると私が説明すると、あなたは少し驚いていましたね。
でも最終的には理解してくれ、ホームスクールに対するヒントをたくさんくれたのは、本当にありがたかったです。

ひたすら彼の興味関心に寄り添い、「探求」「実験」を繰り返す日々は、想像以上に大変でした。息子のパワーに付いていけず、寝込む日もありました。

家やベランダは、捕まえてきた生き物だらけでうんざりしました。
それでも生命の誕生に目を輝かせる息子を見ると、私の選択に間違いはなかったと思うのでした。
なぜなら、死んでいく生き物に直面して、息子は泣きじゃくり、学校では教えてくれない感情を学んだからです。

やがて息子の活動が新聞に載り、コンクールで賞を取り、認めてくれる人が増えて行きました。すると、自信を取り戻した息子は自分から、今年2024年、自ら公立小に転入を希望しました。あの時、我が事のように喜んでくれて本当にありがとう。

今日もどこかで紫陽花にカタツムリを探している親子がいるでしょう。
その親子が紫陽花の秘密を知った時、新しい道が開けるかもしれません。

美穂より


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