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【21歳から6年間、勢いとエンタメ性を育んできた「cas!ca」が挑む「地域との連携」とは】

2024年現在、不登校者数30万人という過去最大の人数の中、フリースクールと呼ばれる「居場所」が増え続けています。
フリースクールとは、何らかの理由で学校に行けない子ども達に学びを提供する場のことです。

今回ご紹介するフリースクール「cas!ca」(カシカ)は、何においても「自由」な環境。大事にしているのは「勢い」と「エンタメ性」の二つです。

それでは、「勢い」があれば、子どもの成長を促がせるのでしょうか。
「エンタメ性」とは具体的にどうやって、子どもを楽しませるものなのでしょうか。

これら二つを武器に、子どものリクエストを実現する若者がいます。
逗子市在住の大場勇弥さん(27)、今回ご紹介する「cas!ca」の代表です。

若いけど、しっかりしています。

「フリ―スクールcas!ca代表」大場勇弥
1997年生まれ 神奈川大学経済学部卒業
小学生時代の転校をきっかけに、学校に馴染めず、半年間、母子登校を経験する。
2018年 神奈川ビジネスプランコンテストファイナリスト 
同年、世界青少年志プレゼンテーション大会ファイナリスト

その日の自分を「可視化」する表現力

彼が運営する(共同経営者あり)「cas!ca」では、その日やりたい事や、時間の過ごし方を一緒に考えます。

そして、1日をどの様に過ごしたかをオリジナルスクラップブックに記録します。「書く」のか「描く」のか「写真」で表現するのかは自由です。

「これを担任の先生に見てもらうと、その子が普段どういうことをしているか知ってもらえる」と大場さんは言います。

「cas!ca」は教育機会確保法が適用されています。大場さんが学校へ理解を示しているため、近隣校の校長の多くが「cas!ca」を認め、在籍校出席の扱いになっているのです。

「今だ!」を見定める観察力

実はこのインタビューの日、彼はオンライン画面越しで、
「30分前に帰ってきたばかりです」と言いました。
10時からのインタビューでしたから、朝の9時半に帰宅したのでしょう。

一体、なぜそのような朝帰りを?聞いていきましょう。

「cas!ca」には、やりたいことを書くホワイトボードがあります。
そこにずっと、ある高校生が書いた「ナイトウォーク」という言葉がありました。

気になっていてもすぐに実行したり、細かい計画は立てないという大場さん。「本人の気分やノリでやります」

そして彼が「今だ」と判断して、「急だけど3日後に決行」となりました。
この勢いが、物事を一層楽しくすることを大場さんは知っているのです。

そこへ、中学生と小学校4年生が便乗して、今回の運びになりました。
目的は、三崎町で美味しい魚の朝ごはんを食べること。

みんなの行動力で成功した「ナイトウォーク」

こうして高校生、中学生、小学4年生の男の子を含めた男子4人で出発したナイトウォーク。(途中で、小4の子は親と一緒に帰りました)

年齢がバラバラの男子3人が暗闇の中、前を向いてラップを口ずさんで歩きました。途中、くだらない話もたくさんしたそうです。

高校生の子の話を聞いている横で、中学生は学校の文句を言い、
「まったく話が噛み合ってなかった」と大場さんは笑いましたが、それが自然体で良いのです。

もっと早く終わる予定だったナイトウォークでしたが、
途中で寄り道や、休憩をしているうちにあっという間に時間が過ぎました。結果、8時間20キロを歩いていたのです。

この日のスクラップブックには、この朝食が描かれたのでしょうか。

これからは何事も予測不能な世の中に入ります。
予定通りに行かないことも、焦らず、むしろ楽しんで対応していく力を、大場さんさえ気づかぬうちに、授けています。

勢いの次に求めたのは「エンタメ性」

大場さんは「僕ができることと、目の前の子どもが望んでいることをどう掛け合わせればエンタメ性が生まれるか、そのマッチングを常に考えている」そうです。

どうしてそのように思うようになったか、その軌跡をたどってみましょう。

大場さんは、小学校2年生で横浜から葉山に引っ越してきました。
その学校で、図工の授業があり、絵の具を混ぜていたら、
「いきなり先生にその混ぜ方違う、と言われたんですよ」
前の学校で自由に絵を描いていた彼は衝撃を受けたそうです。

そして彼は体調不良が続き、登校できなくなりました。
「ずっとモヤっとしたものがあって、結局その担任が変わるまでの半年間は母子登校でしたね」

登校から下校まで母親がずっと付き添うのは、親子にとって大変な負担でした。

「僕も泣いて、母親も泣いて、お互いに、いつまで続くんだろう、この状態って感じでした」

やがて彼は担任が変わると登校するようになり、大学へと進学します。
高校まで頑張ってきたテニスを続けようと部活に入るのですが雰囲気が合いません。そこで大場さんはテニスコーチとして子どもに教えるアルバイトを始めました。

ある時、高校の友人に「子ども好きだし俺の友達がやっているNPOに行ってみては?」と言われました。

紹介された「かまくら寺子屋」は大学生が主催する子どものための「居場所」。そこで子ども達と遊んだり、いろいろな体験をするのが楽しくて、結局は大学を卒業するまで続けたそうです。

そこで彼の「子どもへの接し方」の基礎が身に付いたのかもしれません。
ちょっとした工夫で楽しく子どもを引き込む業です。

子どもに飲み物を出すとき「お待たせしましたー、ただのお茶でーす」とカフェの店員を装うだけで、子どもは彼のことを「面白い人」と見て、一気に距離が縮まります。

このおふざけが教育に「エンタメを取り入れる」出発点となっていったのでしょう。

そして大学3年生になった2018年、転機が訪れます。
彼の住む逗子には鎌倉のような「寺子屋」がないと思い、子供たちの居場所を作るべく「神奈川ビジネスプランコンテスト」に応募するのです。

「古民家を改装して、子どもが入りやすい遊び心のあるエンタメ空間を作る」という明確な思いを持った彼は、ファイナリストに選ばれたのです。

27歳の新たな挑戦「地域との連携」

こうして同年12月、21歳で「葉山リアル基地」の活動を開始。
七畳一間のスタートでした。そこから紆余曲折を経て、2022年、現在の「cas!ca」が誕生しました。

セルフリノベーションしたこだわりの空間、活動時間外はレンタルスペースとなります。

今、彼が目指しているものは「地域との連携で親子を見守ること」です。
昔の井戸端会議のように、気軽に心を吐き出す知り合いが居たら、保護者も楽になり、子ども達も見守ってもらえると考えたのです。

そして2024年9月28日、地域の人たちがつながる「逗子教育アイディアソン」を開催しました。アイディアソンとは、アイデアとマラソンを掛け合わせた造語です。

参加者がグループごとに分かれて着席し、時間内に「教育」についてアイデアを出して競い合う「エンタメ性」がここでも光りました。大場さんのトークも勢いがあり、大盛況。
複数の卒業生も参加しました。みんな、立派に堂々と自分の意見を言っていました。

彼が21歳から6年かけて築いた「cas!ca」らしさが溢れた会場にあなたがいたら、心のスクラップブックに何を描いたでしょう。

取材・文 栗秋美穂


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