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とある会社員、非日常への入口 ④
Episode 4 混沌
私はなおも強気な姿勢でいった。
「強く願えばなんでも思った通りになる?現実はもちろん、夢の中だって思い通りになんてならないんだ。私が生み出したっていう”概念”、つまりあんただって、私はそんなもの生み出そうなんて思ってないんだよ」
「ええ。たしかに私はあなたが望んで出てきたわけではないわ。あなたの物事に対する捉え方、あるいはまったく定まらない価値観、信念の無さからくる自身への不安、過剰な自意識、他者への疑い、それらが混沌となって私が生まれたのよ。言うなればもう一人の人格じゃないかしら。第三者から見れば”統合失調症”のように見えるでしょうけど、これが現実であれ夢であれそんなことはどうでも良くて、今あなたはたしかに”私”と対話しているということが事実よ。」
謎の女による状況説明を聞き、私は暗澹たる思いに駆られたが、なんとか気を取り直して話をつづけた。
「私、いや、俺は……わかった。いったんあんたの言っていることを受け入れよう。もう統合失調症でもなんでもいい。思った通りになるというならそうしてみよう。そうだな……」
考えはじめて数秒、いや、あっという間に数十秒たっていたような気もする。そして気づいてしまった。
・明確な「願望」が無くなってしまっていること
・固定観念から抜け出せなくなっていること
・嫌な記憶がへばりついて自らの考えがすべて曇ってしまっていること
思った通りになるというのに、なんでこんな気持ちにならなくちゃならないんだ。
抜け出したい… はやく
ここから抜け出して、どこか、悩みのないところへ
もう嫌だ。俺は何か楽しんじゃいけないのか?
なんでどいつもこいつも楽しくあろうとする気持ちに水を差すようなことをしてくるんだ。
意識ある限り俺は、、俺は
ただただ幸せでありたい。
まわりは不幸でいいなんて思わない。
みんなハッピーでいてほしい。そして自分もハッピーな気分でいたい。
なぜそれがかなわない。「ただの甘え」 言ってろ。
ハッピーな気持ちでいられるならいくらでも頑張れるんだ。
邪魔をするんじゃない!!
誰かに向けた思いなのか、自らに向けたものなのか、もはやよくわからない脳内問答を繰り返している内、一つの風景が頭の中に浮かんできた。
すると目の前の女がスーッとぼやけていき、同時に頭の中にあったその風景がフェードインしてきた。
どこまでも広がる草原、青空。
ドローンのカメラのように視界だけが空を舞った。
(続く)