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舐めたらあかん


11月も後半に差し掛かり南国であれども夜は冷えるようになった。

実家の猫は夏場は軒下や床下、木下など食欲を満たす以外には室内には入りたがらない。それが冬になると暖を求めて家の中のストーブ前でふんぞり返っている。

野生の警戒心を無くし腹を出して寝ている2匹を見ると冬を感じる。普段あまり寄ってこないやつらを近くで見れてうれしい。

今年も猫の季節がやってきた。だがいまだにストーブもこたつも暖房もつけていない。猫らは家中暖かい場所を探して回る。

しかし実家には暖かい場所などない。それは私にとってもだ。(この場合は温かいという漢字が正しい)

猫らが選んだ場所。それは私だった。

普段近づくことも許さない者たちが私の太ももの上に登ってきた時の気持ちは書くまでもない。

何年飼っているかも思い出せない。攻撃的だった猫たちは大人しく滅多に駆け回ったりしなくなっていた。
もう死期が近いのだろうか。初めて会った子猫の時、餌を始めてあげた時、ハエをとった時、野良猫に怯えていた時。私は猫たちとの日々を思い出し急に膝の上の動物がとても愛おしい存在に感じた。

その柔らかい毛や体に指を置く。つきたての餅みたいだったそれはいつの間にか火を通しすぎた鶏肉のような硬さになっていた。涙を猫の毛で拭いながら顔を埋めて思いっきり息を吸い込む。干した布団のような匂いに包まれて眠りに落ちる。

2時間ほど眠っただろうか。喉の奥の方に違和感を感じて目覚める。息を吸う度情けない音が聞こえる。だんだん肺のキャパシティが無くなり息が吸えない。溺れているのかと錯覚した。だんだん何も考えられなくなる。


このままだと天寿を全うしてしまうと思い私をこの世に産み落とした人を起こす。何が起きたのかと困惑するその人は救急車を呼ぶのを拒んだ。さすがに死なれたら面倒だとおもったのかエピペンを渡してきた。

太ももにエピペンをさしてしばらくしたらタバコが吸えるくらいには快復した。猫の死期を想っていた私だったが危うく猫に殺されるところであった。(アレルギーの診断はされていたがそんなものはどうでもよかったので無視していた)

頑なに救急車を呼ばない人への不信感を片隅に置きながら2回目の眠りについた。

ネコ。それは私が最も好きなもの。




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