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夕方、チェーン店のコーヒーショップにて

『時間潰すのって苦手やなあ』と思ったのはものの1分ほどで、いつも通り実りある時間となったある日の夕方


予想外、いや綿密に計画を練って根回しをしたことで生まれた夕方の時間

いつも余りある時間を悠々と過ごしているので同じ夕方といえばそうなんだけれど、こんな風に拵えた時間をいつもと同じように過ごしたり、まっすぐ帰るなんてつまらない

お散歩だったら何時間でも歩いていられるけどな〜、あんまりウロウロするのもな〜

なんて下らないことに情熱を燃やす、つまらない人間が現代社会の片隅にいるんですよぉ

会社を出てあてもなく歩き、チェーン店のコーヒーショップの前を通り過ぎたけれど、何となく引き返しふらりお店に入る

迷いなく足を踏み入れたはずなのに心の準備が追いつかないままココアを注文する

ぼんやりケーキを眺めていたら『アイスココアSサイズ、店内お召し上がりで間違いないでしょうか』

ええ加減な返事してスミマセン

『ごめんなさい、ホットです。ホットのココアをお願いします』

思っていたよりも人が多く、思っていたより賑やかな店内に驚きつつココアが出来上がるのをボケっと待つ

振り返ってすぐの席に座り、何となく入ったものの今日は本も持ってないし携帯を取り出す気にもならないし(少し飲んだあと、タイトル画像の写真は撮った)、時間を潰すって苦手やなあぁなんて思いながら熱々のココアを一口飲む

夕方だったのと、とても体が冷えていたので選んだココアは、思っていたより甘くて驚いた

この時、しょっちゅう来るわけでもない─殊にこんな平日の夕方─店内の様子に“驚く”、とか何度も飲んだ事があるわけでもないココアの甘さが思っていたのと違うと“驚く”という、軽く浅はかな自身の思考に驚いた

一体何がどうなって驚いたんだろ、私は

度々前を通り過ぎる時、何度も中まで入って確かめたわけではなかったのに、オフィス街ど真ん中のこの店舗は昼間に比べると人が疎らで静まり返っているように見えるな、と思っていた

まず店内の様子は、大通りに面する席しかよく見えない上に気にかけて中を見たこともなかったのだからこの時間の混み具合なんて知る由もない

そして遡ること数年前、あれほどまでに新型ウィルスの脅威に晒されるなんて思いもよらなかった頃、雪の降る夕方、約束まで長く時間がある上に空腹が過ぎるので─昨年まで数年間夜ご飯しか食べない生活をしていた─立ち寄った別の店舗のこのコーヒーショップで飲んだココアが美味しかったという記憶があった

たった一度の、何年も前の普段とは違う状況における記憶

甘いものはしっかり甘くて良いという考えだし、都度都度ココアを練り練りしてミルクを注ぎながら加糖していく作り方をしている訳ではないのは価格からもその工程を見るにつけてもはっきりと分かる

甘さはその時と、おそらく同じだと思われる(味を蒯良・改善しましたなんて事になったとしても今のご時世甘さを強くする、とかはあまり考えにくい気がする)

雪の中空腹を抱えて、やっとの思いで暖かい場所に腰を落ち着け、口に含んだココアは格別だったんだろう

結局のところ、経験してきた(それが1回きりでも何度かの事でも)確かだと思い込んでいても曖昧かでいい加減な”記憶”と、今感じるところの期待や希望やあたりをつけていた“予想”や“予測”がズレたことを“驚いた”と表現してしまったのだろう

街を歩けば数多あるチェーン店のコーヒーショップでさえ、様々な経験も少なければ語彙も少ない私には、単純で浅くて軽い(軽佻浮薄とでも言おうか)“驚き”の連続の場所と成り得る

本を読むわけでもなく、携帯を取り出して何かを見るわけでもなく、こうして私は自身がぼんやり思い浮かべた事に対してあーだこーだとしょうもない事に考えを巡らせて自分の世界だけで数十分を過ごす事が出来るのだ

でもせっかく見ず知らずの人に囲まれているのだから少し自分の世界から這い出して店内を眺める

白髪頭で向かい合わせに座り、とてもお洒落な帽子にツイードっぽいこれまたお洒落なセットアップの男性と明るい色のスーツを来た同じ雰囲気の白髪の男性はハツラツとした声と豪快な笑い声で楽しそうに会話しておられる

人との会話を楽しめる人は若々しい

腰の曲がった小柄な女性─こちらもマントみたいなのを引っ掛け、白い髪のオカッパ頭にはカラフルなブローチの付いたカラフルなニット帽をかぶっておられる─は席を立ったり座ったりを頻りに繰り返していて忙しそうなんだけれど、どうやら飲み物を席で少し飲み、途中で食事も注文しそれを並べるために荷物の場所を変えたり、また少しするとタバコ(ラクダの柄の小さな箱を手に持っておられた)を手に店内奥の喫煙ルームへ行ったりされている

お元気ですね

右隣の若い女性は携帯の画面越しに誰かと何やら話し込んでいる

左隣の品の良い女性は昭和〇〇年度卒業合同クラス会─その下の段には出欠どちらかに丸がつけられている─ハガキを、こうしてはっきり読み取れるほどに私のエリアにはみ出して置き、整理整頓されている

幹事さんかしら


幹事さんがハガキをまとめて席を立ちおられなくなってからしばらくすると、甘〜い”ベリー系の香料”の香りが近づいて来たな、と思うと、持ち帰りのお会計を済ませる間お母さんのうしろで待っていた女の子が隣に座らされて、ひっきりなしに口に運んでモグモグしているグミの香りだった

子ども、そして若い人は本当にグミが好きなんだな

ニュースで、製菓会社やメーカーが、ガムや飴の製造よりグミに力を入れているのだというのを知った時、自分が全く食べない(そもそも飴は食べないし、ガムもあまり食べない)上に子どもがいないのでへ〜っと思ったが、それ以来友人宅へ伺う際は喜んでくれるのでHARIBOのグミも持っていくようになった

他の人達は、驚くべきことに片方の手で携帯を触りながらもう片方の手でパソコンを操作していた

本を読んでいる方でさえ耳には何かを突っ込んでいる

これって普通の光景なのかしら

私は、この中のどの方のやっている事もしない事ばかりなので、興味深く観察して過ごしていた

入店した時の『時間潰せるかしら』なんて心配は全く無駄となった、大変実りある時間を過ごした夕方のこと

本当に、まっすぐ帰らなくって良かった

そう心から思った






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