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人生という名のフルスイング②

第4章:運命の出会いと新たな挑戦

大学のある日、僕はひとりの女性と出会った。彼女は、あまりに自然にそこにいたので、まるで僕の人生が初めからそう計画されていたかのように感じられた。大抵の出会いには何かしら特別な演出が伴うものだが、彼女の場合にはそれが一切なかった。ただそこにいて、僕もそこにいた。ほんの偶然、二つの視線が交差しただけだった。

彼女はいつも穏やかな表情で僕の話を聞いた。将来の不安、過去の些細な失敗や、どこへ向かうかわからない日々の話。彼女はただ、そこにあるものとしてそれを受け入れてくれているようだった。彼女が頷くたびに、僕はそれまで気づかなかった自分を少しずつ発見していった気がする。彼女の存在そのものが、僕に安心感を与え、気がつくと、僕は自然に「こんな人と一緒にいるなら、たぶん笑って過ごせるんじゃないか」と思うようになっていた。

卒業後も、彼女と過ごす時間は僕の生活にしっかりと根を下ろし、やがて僕たちは結婚した。人生は、こうして時々、極めて自然な形で自らの道筋を描いていくものなのかもしれない。

その後、不動産業界へ進むことにしたのは、正直なところ、深い考えがあったわけではなかった。ただ、僕にはそれが現実的な選択に思えたのだ。けれど、その世界は僕が思っていた以上に厳しく、しばしば無情な場所だった。朝から晩まで働き詰めで、何が正しく、何が間違っているのかも分からなくなることがあった。上司はしょっちゅう声を荒げ、僕を叱り飛ばし、僕が反論する間もなく「君は何もわかってない」と言い放った。

それでも、僕には支えてくれる人がいた。彼女だった。どんなに疲れていても、彼女は変わらずに僕の隣にいた。彼女が穏やかに微笑んでくれると、少しずつ心が解かれるようで、それだけで僕は次の日も仕事に向かうことができた。彼女の支えがなければ、僕はおそらく途中で道を見失っていただろう。彼女が隣にいるだけで、僕の存在にはある程度の意味があった。

やがて、結婚生活は3年目に入り、僕たちの間に長男が生まれた。その小さな命を初めて腕に抱いた時、僕は何とも言えない思いを抱いた。小さな体温が自分に伝わってくるたびに、胸の奥に、これまで感じたことのない重みが静かに沈み込んでいくのを感じた。それは、たしかに「責任」とでも言うべきものだった。人生が少しずつ、形を変えていくのを感じた。

次男が生まれる頃、仕事はますます忙しくなっていた。僕の帰宅はいつも深夜にずれこみ、家に着く頃には彼女も子どもたちも既に寝静まっていた。まるで自分だけが家の中で取り残されているような感覚に陥ることが、何度もあった。

そんなある夜、彼女がふとした調子で「私ひとりで育てているような気がする」と漏らした。言葉は、まるで自分に向けられたものではないように、静かに部屋の中に広がった。その言葉は、僕の心の中で何度も響き、その度に、彼女に何を与えられているのか、僕には答えが見つからなかった。僕はその日、迷わず異動願いを出すことを決めた。どんなに遅くなっても、彼女の言葉がそこに残り続けていたからだ。

異動が決まり、自宅近くの支社で働くようになると、少しずつ家で過ごす時間が増えていった。彼女と子どもたちと一緒に食事をしたり、家のことを手伝ったり、夜に話をするというのが日常の中で少しずつ根付いていった。やがて、三男も生まれ、僕はふと「これでよかったのかもしれない」と心の中で何度も繰り返していた。彼女の隣で、家族を感じられることの意味が、少しずつ心に染み入っていくような気がしていた。


第5章:フリーエージェントとしての挑戦

けれども、人生というのは思うようには進まないものらしい。あの時、僕の頭の中にはいつも通りの仕事が流れていたはずだ。それなのに些細な意見の違いが、僕の出世の道を閉ざしてしまったのだ。ほんのわずかな差異だった。それが結果として僕を完全に転落させてしまった。

その後、少しでも自分に合う環境を求めて、僕は地元の不動産会社に転職した。だが、そこでもどうしても仕事への考え方が噛み合わなかった。「嫌いだ」と正直に口にしたことが仇となり、気がつけば退職することになっていた。辞めてしまえば何もかもが呆気ないほど簡単で、あまりにあっさりとした終わりだった。だが、そんな終わりもまた運命のように思えた。

「独立するしかない」と決意し、フリーエージェントとしての道を選んでいるが、資金はもうすぐ底を突き、わずか2ヶ月で限界が見え始めた。まるで小さな箱の中に閉じ込められたかのようで、息苦しい感覚が絶えず僕の中に残った。

どうしてこうも追い詰められているのか。僕は自分に問いかけてみたが、答えなど見つからなかった。人生には常に少しばかりの余白があるものだと思っていた。けれど、その余白は僕の中にほとんど残されていなかった。僕の人生はただひたすらにフルスイングの連続で、休む暇もなくバットを振り続けてきたのだ。

ホームランを打てる日が来るのだろうか?それでも、僕は今もバッターボックスに立っている。誰も僕に立つことを強制しているわけではない。それでも、バットを握りしめ、どこかにあるかもしれないホームベースを求めてスイングを続ける。その理由は僕にもわからないが、少なくともここに立っている間は、世界が少しだけ形を持っているように思えた。

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