仕事中に緊急事態が起こり、ひとりで判断をしなければならない時に思い出して欲しいこと。
いざという時の判断のよりどころとは。
いざという時の備えは、後輩に伝えたいことの中でも上位項目だ。軍隊や警察、消防など、緊急時の対応を細かく想定して日常的に訓練していない一般的な企業ならば、これから書くことは凡そ当てはまるのではないかと思う。
例えば就職や転職をする時、様々な要素で迷ったとしても最終的にあなたは「ここで働こう」と決断する。職場に迎え入れられて仕事を通じて少しずつ組織のカルチャーに馴染んでいく。気がついたら一年経ち、後輩のお手本になっていく。経験値があがって様々なケースの判断ができるようになる。それが平和な日常だ。
しかし、大規模災害や感染症のパンデミックなど、これから先何が起こるかわからない。大災害でなくとも、大なり小なり危機に直面することは想定しておく方が良いだろう。もし、仕事中に先輩や上司に相談する余裕も手段もなく、自分ひとりで決断を迫られる事態が発生したら。いざという時に正しく判断できるか。自分のメンバーには、たとえ1年目の新人であってもそういう場面では勇気を出して決断してほしいと願う。そんな時に決断の支えになるのは組織の「理念」「ミッション」「行動指針」だ。
「自分の会社の理念を暗唱できるか?」
まず、この問いにYESと答えられるなら素晴らしい。それはとても良く考えられた、つまり理解でき覚えやすい理念である可能性が高い。そしてあなた自身、理念に惹かれてその職場を選んだか、普段から仕事上の判断基準を理念に置いて運用しているかのどちらかではないだろうか。
ミッションはゴールを見失わないために大切な役割を果たす。何のためにこの仕事をしているのか?という社会的な使命を表している。ありがちだが目的と手段がひっくり返ってないか確認する時にも有効だ。
最後に行動指針はどういう価値基準や優先順位で業務を遂行するかを明確にできる。また行動指針がしっかりしていればいる程、ルールやマニュアルは最小限に、自由や裁量の幅を増やすことが出来る。このニュアンスは制服のない高校に通った経験のある人には何となく通じやすいかもしれない。
非常時に上司判断や自己判断が最適でない理由。
例えば、災害時に大渋滞がありトラックの運転手が荷物である食品を周囲の被災者に分け与えたという話があったとする。様々なシチュエーションが発生する非常時に事細かなマニュアルは存在しない。では運転手は食品を配る前に電話で上司に確認をとったのだろうか?それとも独断で配ったのだろうか?
どちらもあり得ると思うが自分の考えを書いてみる。
まず上司の確認が必要となると電話やメールが通じない時点では行動できない事になる。連絡がついても電話のつながった上司はその上の上司にお伺いを立てる。災害時に(例えば社員の生存確認の様な)より緊急度の高い対応に迫られる中で、配送できない荷物の処理方法の判断に限られたリソースを使うのは(大事な問題とはいえ)非効率だろう。
では運転手が独断で配るのはどうか。もったいないからどうせなら配りたいと思ったとしても、商品を無料で配布した場合の経営的な損失の処理や摂取時に消費期限を超過した場合のリスクなど責任問題となる事を心配して行動に移せない人も多いのではないか。また担当者の個人判断で「あそこではこんなサービスがあったがここでは無かった」など後々SNSで炎上してクレームになってしまうのでは、といった不安を感じるかもしれない。
理念やミッション、行動指針が共通言語になっている場合。
仮にその組織の理念が「持続可能な社会への食を通じた貢献」、ミッションが「食の分野であってよかったと感じてもらえる事業」、行動指針が「常にお客様の立場で考え行動します」というものだったらどうだろう。
消費期限より前に商品の廃棄ロスを防ぎ、お腹を空かせた被災者に喜んでもらい、料金は頂かなくとも将来ファンになってもらえる顧客予備軍へ商品を配布するというあなたの決断は、組織の掲げるものと見事に一致する。理念、ミッション、行動指針に基づくことで、仮に上司へは事後報告となったとしても「間違っていない」と自信を持って決断できるのではないだろうか。
更にこれらが組織全体の共通言語となっていれば、きっと同僚も同じように行動するだろうと想像でき不安は起きにくいはずだ。そのような訳で理念やミッション、行動指針は非常時に思い出せるぐらいの共通言語になっているのが理想だ。(前提としてだが、共通言語にしやすいようにコンパクトでストレートな表現である事も大事。)
理念、ミッション、行動指針を常に持ち歩き繰り返し照らし合わせること。
日頃から理念やミッション、行動指針は手帳やノートに貼り付けて持ち歩き、読み返す事をお勧めしたい。例えば自身の1日を振り返りながら、これらに合致する行動だったかチェックするのも良い。いざという時に自らを助けるのは、普段から小さな事でも理念やミッションや行動指針に照らし合わせて判断することで得られる様々なケースの蓄積だからだ。もし暗記出来ていないなら、改めて自社のwebサイトのトップをチェックしてみてはどうだろう。「いざ」はいつ来るかわからない。
これからの働き方にについて考えて、良いと思うことは組織の中で実践していきたいと思っています。より多くの人が幸せを分かち合える社会を目指して。