道案内〜出会ったからこそ気づけた〜
「人生は出会いと別れの繰り返し」とはよく聞きますが、別れるまでの時間にはバラつきがあります。
ほんの一瞬すれ違っただけの人から、その後の人生をずっと寄り添う人まで様々です。
過ごした時間が短いからといって、自分に与える影響が少ないというわけでもありません。
ほんの数分の間でしたが、そう思った出来事について話していきます。
老紳士との出会い
ある日の夕方、駅の近くにある商業施設に向かっていた時でした。
1人の男性がトコトコと近づき、控えめに声をかけてきたのです。
揃いのジャケットと帽子を身につけた、70代くらいの方でした。
私が立ち止まって返事をすると、男性はホッとした顔でたずねます。
「駅は、どこでしょうか?」
それを聞いた私は、思わずハッとしてしまったのです。
新しい駅舎への道
老紳士がなぜ駅の場所を訪ねたのか?と、疑問に思われた方もいるでしょう。
じつは再開発により駅が移転しおり、街がすっかり様変わりしていたのです。
元の駅は商業施設や広場が隣接しており、改札口もすぐ見えるようになっていました。
しかし移動で駅までが長くなり、工事現場の間にある連絡通路を通らないといけません。
イメージ図(赤い点が老紳士のいた場所)
到着してみたら、それらしき建物が見当たらずに困っていたそうです。
防護壁やバリケードに案内が貼ってありましたが、他にも掲示物が多くてわからなかった様子。
連絡通路までの行き方もわかりづらいかと考え、途中まで案内をすることにしました。
案内をしながら
はじめて利用した人でないと気づかない問題もある、と改めて感じていました。
建物の場所だけではなく、その土地の風習や地方の情勢、会社の方針など、当人たちでないと知らない情報があります。
しかし知らない人でもわかりやすく伝える、説明する側としては大事なことです。
文章を書くときにも、同じことが言えるのではないでしょうか。
本人の中には書きたいイメージがあるので、文章に必要な言葉が足りなくても理解できてしまいます。
しかし読む側からしてみたれば、情報がぬけていたり、多すぎてしまうと誤解や混乱を招くのです。
正しく伝わらないことほど、悲しいものはありません。
はじめての人が見てもわかりやすい文章を目指そう、と心に決めたのでした。
別れ際
老紳士は「あなたの時間を奪ってしまった」と、申し訳なさそうにしていました。
気にしないようにと伝えたかったのですが、うまい言い返しができません。
なるべく笑顔で大丈夫ですよと、伝えるのが精一杯だったのです。
自分のコミニケーション能力の低さに呆れつつ、駅へ向かうその人の背中を見送りました。
大事なことに気づかせてくれた老紳士が、無事にたどり着いたことを祈るばかりです。