『「家族の幸せ」の経済学』 覚え書き
この本で知り得たことを挙げていく。
第1章 結婚の経済学
・結婚相手として選ぶ女性の条件として「家事・育児の能力」を重視する男性は5割近くいる
これを聞いてどう思うだろう?「そんなにいるのか? まだまだ遅れているなあ」と思うだろうか? そう考えているとしたらそれは大間違いかもしれない。少ないのだ。
何と比較して少ないかって? 昔と比較して? 違う。
女性と比較してだ!
女性が結婚相手の男性に「家事・育児の能力」を重視するのは6割にも登るのである。
考えようによっては
家事・育児は女性ではなく男性に求められている
と言える。
男女平等とか共同参画の中で言われてきたのは、「女も男も共に家事・育児を」であった。
一方、この本に書かれていることではないが、経済学にはリカードという人が提唱した「比較優位」という概念があって、得意な人が得意なことをやるほうが全体の生産性が上がるということが明らかにされている。つまり、役割分担は生産性の観点からは正当化されるのだ。
それがすなわち「女は家に、男は外に」ということではない。個々のカップルにおいて、より得意なことは違うからだ。ある家庭では「妻が旦那(稼ぐ人という意味)さん、夫が奥さん」のほうが生産性が高い、ということもある。
ただ、「家事は内容ごとに夫婦で仕事を割り振るのではなく、手の空いているほうがやるのでもなく、時間で交代することによって分担すべき」と主張するフェミ二ストもいたから(負担が偏らないようにするためだろう)、比較優位という考え方はそういう人たちには受け入れられないだろう。
たしかにその人の得意なことが、やりたいことややりがいを感じることと一致するとは限らない。「下手のよこ好き」ってのもあるだろうし「器用貧乏」っていうのもある。得意なことを得意な人だけがやるというのは「やりたくないことばかりやらされる人」を生みだしかねない。
ただ、世の中には「ちょっとやそっとの努力ではどうにもならないほどに何かが困難」という人はいる。困難は他の人に補ってもらうことで平等になればよい、というのが福祉の考えかただ(誰が補うか、はこれまた難しい問題だが)。
女性と障がい者は、差別を受けている者同士ということで協働してきたとともに、相容れない協調しかねる部分も持ちながら歩んできた。今挙げたような障害者福祉の論理をただそのまま女性問題にあてはめても、バッサリ否定されるだろう。
考えてみよう。「俺、家事とかムリだしィ。君のほうが得意でしょ?」と不得手を言い訳に男性が家事をせず女性に押し付けたら? それはただのフリーライドというものだ。家事ができるようになるために時間と労力を払ってきた女性が割りを食うことになる。「ハア? ムリだあ? こんなに苦しい思いをしてきたあたしたちの前でそんな寝言、口にするだけで冒涜なんだよ!」と言われてしまうだろう。
ところがデータが示しているのはもはや、男性も家事をしろ、ではなく、家事は「男性が」しろという空気であるということである。かつての「女は家に」という風潮がひっくり返ってしまっている(ややデータを曲解した結論ではあるが)。この事実は興味深い。どう考えたらよいのだろうか。
ただ、昔の男女が結婚相手に何をどれくらいの割合で求めたかというデータは載っていなかった。だからこれは、結婚する人の割合が減っているせいで起きた数値の変動にすぎないのかもしれない。そこで次は、結婚する人が減っている理由について考えたい。
・生涯未婚率・晩婚化が進んでいる
比較優位に通じると思うのだが、著者は結婚のメリットを「費用の節約」と「分業の利益」と「リスクの分かち合い」にあると述べている。それが便利な世の中になってきたことで、家事・育児能力の家庭における重要性が低下し、未婚・晩婚化が進んでいるのでは、と著者は考えている。
たしかに「コンビニが妻がわり」などと言われてきた。男が家事をするようになる前に、家事をする人自体が必要なくなってきたということか。それは男女どちらの立場からも言える。
それに加えて、リスク分散という観点からは、結婚はむしろリスクを増やすものかもしれない。とくに女性がキャリアを考える上では、結婚はデメリットのほうが大きくなるだろう。
結婚しない人が増えている理由が見えてきた。さて、結婚してもらえないと困るのが結婚産業だ。と言えば真っ先に思いつくのはゼクシィだ(あとはたまごクラブだ)。
ゼクシィのかの有名なコピー「結婚しなくても幸せになれるこの時代に 私は、あなたと結婚したいのです」は多くの人の心を打った。このコピーは現代における結婚の本質をついていたのだろう。
じゃあなぜ「結婚したい」のだろう。結婚が減った理由が明らかになれば、それでも結婚する理由も浮かび上がってきそうだ。
おそらく、コンビニ以上のものが欲しいからだろう。「便利」とは生活に必要なことをよりやりやすくするということだ。その先に求められるのは「質」ということになる。そこには「人」が大きな役割を果たす余地があるということだろう。
結婚相手に家事・育児を求めるというのは、お金を出して得られるサービス以上の「質」を求めるということになる。
他ならぬスキな人にやってもらいたいということだ。
「お前の味噌汁が飲みたい」「アナタのオムツ替えが見たい」
である。
ではどんな人を好きになるのかということについて目を向けて見よう。
・人は自分と近い学歴の者を好む傾向がある
それでも女性は男性より、結婚相手に高い学歴を求めるという。また男性は自分より高い学歴の女性を好まない傾向がある。
私の場合は、恋愛・結婚の相手が高学歴であることはかなり重要なようだ。たしかに昔から、一流大の図書館で勉強している院生などには萌えまくっていた。
自分にとって大事な領域については、自分と同じくらいのスペックの人のほうがいい。偏差値が10ズレると尊敬できるが、20以上ズレると話が合わない。
私の場合には知的なものが大事で、語学がかなり大事だったのだと結婚して気づいた。
英語が解る人とそうでない人とでは、見える世界が違う。妻は私よりも語学に長けているので、話がかなり通じ、ラクである。歴代彼女たちには感じなかったことだ。
第二外国語くらいだと、ズレていてもほとんど構わない。数学の能力については、ハナから相手に求めることを諦めている。
さて、この章の内容から自分の結婚を振り返ってみる。自分よりははるかに学歴が高い女性と結婚した。私はかつて婿入り修行のために医師免許を取ったが、そんなものでは足りない。彼女のリスクに見合う質を提供せねばならぬ。
ということで妻と結婚する際には、料理教室に通った。この本を読む限り、良い選択であったのではないかと思う。
ところでリスクの分散ということであれば、出産はどうだろう? かつて出産は命がけの行為であった。結婚をするということは、「この男の子供を産むために、私は命を落とすかもしれない」という賭けに出る行為であったはずだ。その代わりに得るものと言えば、当然ながら子供ということになる。
では子どもを儲けることの価値は何だろう? こういう問いを不遜に思う人もいるだろう。「子どもがいることは何よりの喜びに決まっているだろ」と。それはもっともだと思うこともできるが、ここではそういう思考停止な発想は非常識のひとつとしてばっさり切り捨てておきたい。
経済学(行動経済学とかじゃなくて)や社会学が扱うような言葉で考えてみよう。
著者は子供を儲けることの価値として、跡継ぎになってもらうことや介護をしてもらうことをあげている。「墓を守ってもらう」などというのは、そのどちらをも象徴した行為かもしれない。
現代では子どもにこうした期待を抱くことが現実的でなくなっている。それが子どもを持つメリットが減っている理由のひとつであると著者は言う。それはすなわち、結婚のメリットのひとつが減っているということにも繋がる。
「自分の遺伝子を残す」というやや生物学的、進化心理学的な視点(そういうのは私の好みだが)からのメリットはどうだろう。子どもが死ぬ割合が減ってきているので、たくさんの子どもを儲けなくてもよい、という観点から少子化は説明できそうだ。生物学の用語ではK戦略と呼ばれるもので説明できる。
晩婚による出産リスクも、かつてよりはずいぶん減ったのではないか。
これらのことを総合的に考えると、昔は「家を継ぐ」ということの価値自体が女性の命よりも高かった、ということが言えるかもしれない。便利さというものが変動しているのに加えて、価値観というものもまた推移しているので、何らかの推論をするには少し複雑にはなってしまうが、時代の変化が結婚・子育てに大きく影響を与えている証拠が確かにあることは確認できる。
第2章 赤ちゃんの経済学
・出生体重が重いと、その後の人生が良い
因果関係を慎重に検討する必要があるとは著者も言っているものの、ちょっと気になることがある。
妊婦に厳しい体重制限を強いる産院があることだ。それが妊婦と胎児のためであるという信念に基づいてはいるのではあろうが、妊婦への負担もかなりある。高度な肥満の妊婦は断られるという噂のある産院さえあった。本当にそうなのかどうかは定かではないが、本当なら由々しきことだ。
それが適切な主張であるのならやむを得ないと思えなくもないが、不適切な可能性さえあるのだから妊婦の体重制限は過度にすべきではない。出生体重の低さが将来の不健康や知能の低さにも関わってくるなら、赤ちゃんの出生体重を低くすることにつながりうる医療は訴訟に発展しかねない問題かもしれない。
・帝王切開で生まれた子には将来身体疾患が多くなる傾向があるが、発達障害とは関係ない
・母乳育児と肥満・アレルギー・喘息防止や知能・行動面に対する長期的な効果は確認できなかった
「おっぱい星人は母乳で育てられなかった人ばっかりだった」とのたまう巨乳のキャバクラ嬢もいたが、本当かどうか誰か調べてイグノーベル賞を取ってほしい。
第3章 育休の経済学
・日本の育児休業制度にある雇用保障と給付金は国際的にもそこそこの水準である
意外だ。アメリカがひどい。育児給付金がゼロだ!
・育児休業があれば仕事を辞めなくて済むか、ということについては、あまり長いと職場復帰困難になることがわかった
第4章 イクメンの経済学
・育休は伝染する。特に上司が育休を取ると、皆取る
私がいた職場では、育休を推奨していた。私が取るときも、手続きさえすれば良かった。でも一応、上司にお伺いを立てた。「もちろんどうぞ」と言われた。むしろ、そんなことに上司として口を挟むなんてことは許されない、という空気さえあったなあ。
第5章 保育園の経済学
・母親の学歴が低いと、子どもに攻撃性が見られる、という傾向がある
保育園通いをすると、その学歴が低い母親の子どもの攻撃性は低下する。また、保育園通いは、学歴が低い母親のしつけの質を改善する。保育園重要。
第6章 離婚の経済学
・もっとも離婚率が高いのはロシア
・離婚のリスクが高くなる職場がある!
異性の多い職場だそうだ。無論、不倫するからだろう。うっひゃあ、前の職場は課内も顧客も女性だけだった。そこに転勤する直前にはわざわざ部長から呼び出されたもんなあ。「気をつけるように」と(問題起こしそうなヤツと思われていたんだな)。
離婚することなく生還しました。よかったね。