遠隔診療の備忘録(6) 『遥かなる病院』
医療にアクセスできないと困る。
病院と物理的な距離があると、当然アクセスしにくい。とくに緊急時は大問題だ。搬送される間に亡くなることだってある。この世の一刻を争う事態の中でももっとも一刻を争うものである。かつて、産科の救急搬送先が見つからずに妊婦がなくなるという事件が物議を醸したことがあった。なんと都市部の話である。
もう少し軽い病状だとしても、距離が遠ければ時間がかかる、お金もかかる、面倒になる。当然ながら医療機関への足が遠のいてしまう。
地方に行くほど、病院の密度は希薄になる。離島などは深刻である。数時間かけて搬送という事態になる。
あるいは、希少な外来、治せる医者が限られている病気、稀に見る腕の良い医者というのもあり、これもアクセスしにくい。たとえば原井クリニックは強迫症専門で、全国から人がやってくる。新幹線や飛行機を利用するとなれば、医療過疎地域で普通の病院を受診するよりもずっと遠くまでの移動ということになり、これはもうちょっとした旅行である。
医療のような大切なサービスについては受けられる機会をどの国民にも平等に、というのが求められるところである。純粋に距離が問題であれば、ドクターヘリを使うなどが解消の手段のひとつである。救急車も、より緊急性の高い状況でのアクセシビリティーを下げる道具である。どちらも、医療費で元を取ることは考えていない。
ところで、医療のことだけに限るわけではないだろうが、便利さを求めて都会に住む人もいる。そのために人の多さと、高い土地代、税金という代償を払うことになる。
そういった人たちにしてみれば、「土地代も税金もやすいからすぐ病院にかかれなくてもしかたないだろ」という冷酷な言い分も成り立つことになる。早い話がこれは格差なのだ。
だけどそんなことを言っていたら、都市への一極集中をよしとすることになる。すんごくしょーもない個人的な論理で言わせてもらうと
「本当に優れた人って、都市部よりも郊外に住むことを望むもんだよねー」
ということで、都市でないと人がまっとうに暮らせないというのは、できそこないな国ということになるのではないかと思っている。それに、先に述べたように、都市部でも病院にたどり着けずに人が亡くなることはある。
医者のほうが患者の元に飛んで行けるのがいいのか、患者の方が医者の元に飛んで行けるのがよいのかは分からない。いろいろ手はあろう。頭は使うためにある。金も。少しでも医療アクセスをしやすくするために、なにかはできるのではないか。
あえて夢のようなことを述べれば、どこでもドアがあるといい。でもあれ? それってたとえば、インターネットのことじゃないの?
だが外出自粛が以前ほどでなくなった現在、遠隔診療はいっこうに前進する気配もなくなった。
Ver 1.0 2022/8/2
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