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【ショートショート】 『立方体の思い出』

「何か大会にでも?」

 男性は笑ってから「失礼」と咳払いをした。

「準決勝ではなく、結晶に準ずるで準結晶。規則的なのに周期性のない結晶がお父様の研究テーマです。ほら、お宅の床はペンローズタイルじゃないですか! この構造です」

 化学者だった父が亡くなると、テレビで報じられた。何が凄いのか知らない。いつも忙しくしていたが、世界的研究者だったとは。助手が遺品に貴重なものがあるはずだと言って今日訪ねてきた。

「書斎に正十二面体がありますね。これは超立方体の超平面切り口を考察する際に重要な…」

 男は私の顔を見て、説明をやめた。

「とにかく生前『完成だ!』と呟いていましたから、記録があるかも。もし準結晶安定性の謎の解明なら大発見です。あ、この論文だ!『娘へ』って献辞がある。お洒落だなあ」

 助手は解読するために預かっていった。

 後日、記者会見にてーー

「博士が完成させたのは、超立方体が規則的に無限の模様を生み出すーー万華鏡でした…」


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