【コント(14)】『遠回り(11)』
(二人の鬼に両腕を掴まれ連れてこられた白装束の亡者。地面に投げ出される。目の前には大きな閻魔大王がいる)
「(エコーのかかった声で)これより、地獄の裁きを行う」
「ああ、やはり私は死んでしまったのか。どうやって死んだか覚えてはいないんだよなあ」
「お前は罪を犯したか」
「うわ、閻魔大王だ。まさか私が地獄の裁きを受けるなんて。ええー、閻魔大王様。私はつまらぬ男ですが、そんなに大罪を犯した覚えはございませんで。なにかの間違いではありませんでしょうか」(ゴト、という音がする)
「お前は罪深い男だ」(キーン、とハウリング音が鳴る)
「あれ? もしかして……(つかつかと歩み寄って、閻魔大王に触る)」
「今からお前の罪を述べる」
「(閻魔大王を叩く)これって、もしかして」
「まずは……あれ? ちょっとお。なにをやって……」
「今タイムラグがありましたねえ。叩いてもすぐに気づきませんでしたねえ。ってことは本体は別にあるんでしょう。っていうかこれ、セットですよね」
「私は閻魔大王だ。本物だ」
「嘘をついたら本物の閻魔大王に舌を抜かれますよ」
「ああ、それは嫌ですう」
「ねえ、神沢さん」
「なんですか」
「神沢さんですね」
「……閻魔大王……偉大なる者です」
「嘘をつくと、舌を抜かれますよ」
「神沢です」
「裏にいるんでしょう。どこですか」
「(岩だと思ったところから亡者のかっこうをして出てくる)おや、里中さんじゃありませんか」
「まったく、なにをやっているんですか。マイクを持って。閻魔さまのふりをして。オズの魔法使いみたいに、そうやって人を騙していたんでしょう」
「いやあ……」
「閻魔さまが怖くて嘘をつけなくなると、言うことがなくなってしまいましたね」
「ぴやあ」
「ぴやあってなんですか。無意味なこと言ったって仕方ありませんよ。まったく。それにしても、あなたも私も死んでしまったとはね。なにがあったんだか。あなたのせいでなにかに巻き込まれたんですかねえ。まったくあなたは私にとって、死神だ」
「そんな。私に悪気はないんですよ」
「ふざけすぎなんですよ。いい迷惑です」
「でも、それまでは私が命を救ってあげたじゃありませんか」
「救ってもらった覚えはありませんね。ウーロン茶ひとつの恩もありません」
「エッキーとかジニーに合わせてあげたでしょう」
「なにを言っているんだか」
「禅問答も出してあげたし」
「あなたの遊びに、私がつきあってあげたんです。不本意にもね」
「荒羽駅も教えてあげたし」
「あなたのおかげで荒羽駅に意味のある着きかたができたことはありませんねえ」
「(急にマイクを通して閻魔さまの声で)お前は罪深いー」
「急にやめてくださいよ。それ。もういいですから」
「(閻魔さまの声)ではそれを今から見せる」
「なんか用意されましたね。これ、鏡じゃないですか。あ、照魔鏡? 生前の行いが見えるという」
「では鬼たちよ。スイッチオン!」
「あ、なんの映像だ。これは……」
《あのー、荒羽駅はどちらでしょうか》
《ああ、荒羽駅ね。こっからまっすぐこの道をずーーっと行ってはじめの交差点を右に曲がると、その角に中華料理屋があって……》
「ああ、思えばここから始まったんだった」
《じゃあ地図なんかもありますけれど、それもいりませんね》
《ちょっと、あるんならさっさと言ってくださいよ》
《地図ー!》
《それ地球儀でしょ》
「山にも行ったなあ」
《……どうしてあなたに道を聞いて迷うだけで、とんでもないところに行って、ついには潜水服を着て海の底にいることになるんですかねえ》
《ねえ。私も知りたい》
《私も知りたいじゃないですよ。嗚呼、頭が痛くなってきた》
「この、水の中ってのがわからないんですよねえ。いつのまに潜水服まで着たんだか記憶もないし。でもそのせいで死んだんじゃないんだよなあ」
《あ、日本語ね。すいません。あたし原始人語学部卒なんでついつい》
《いいから早く意味を》
《我が国の核爆弾を買ってくれてありがとう、って》
「これはもっとわからない。どうしてフランスに……」
「これでわかりましたか?」
「え? (うつむいて独り言のように)あ、もしかして核戦争になったとか? そうか。だから気づく間も無く死んじゃったのか……」
「わかりましたかな」
「じゃあ私たちのほかにも、大勢の人が。私がフランスと核兵器を買う調印をしたばかりに。なんてことだ」
「罪深いでしょう」
「あなたも悪いでしょうが!」
「今はあなたの罪の話をしているんですよ。私にそっけない態度を取りつづけたという」
「はあ?」
(画面には山で神沢が置いていかれる姿が映る)
「これ、寂しかったんですから。あなたを捕まえて拉致して寝かせるのに……」
「あのお、神沢さん」
「……潜水服を着せるのなんか大変だったし。それなのにすぐいなくなって……」
「すべては神沢さんの仕業だったんですね!」
「出した問題もためずに即答しちゃうんだもん」
「いいかげんにしてください! いい大人が。なに大掛かりなおふざけをやってくれてるんだあ。ええ? そのたびに私は振り回されて。あんた寂しい人なのかどうかは知らないけれど、こっちだって暇じゃないんだ。いい加減にしろ! 罪深いのは、ほかならぬあんただよ」
「………………(しゅんとする)」
「騙されませんよ」
「いえ、もうしませんよ。こんなことは」
「あたりまえですね。謝ってください」
「タバコは」
「吸いません」
「はい」
「じゃなくて! それ、前にやったじゃないですか。謝るのはあなたですよ」
「いろいろ人生を誤ったことならありますけれどね」
「ダジャレはいりませんよ。ついでにモノマネも、問題も」
「じゃあ、壇蜜は……」
「壇蜜もいりません。あ、念
のためにマイクも預かっておこう」
「ああ、それがないと閻魔大王が」
「だから取るんです。謝りなさい」
「はい、わかりましたよ。あやまりますよ。すいませんねえ」
「本当に反省していますか? たぶんあなたは本当に地獄に落ちるでしょうね」
「それだけは勘弁してください」
「いや、私が決めることじゃありませんから。知りませんよ」
「ではお詫びをいたします。お約束を果たします」
「もう荒羽駅はけっこうですよ」
「荒羽駅のことじゃありませんよ」
「じゃあ、なんですか」
(先ほどから照魔鏡に、先ほどのとは違う雰囲気の映像が流れている)
「あれ? これって……ドクター倫太郎!」
「蒼井優との絡みがですね」
「(マイクに向かって)地獄に堕ちろー!」
「うわああ」
(神沢、鬼らに連れていかれる)
〈了〉
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