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【コント(9)】 『店員さん』
「あ、注文してよろしいですか?」
「ちょっと待ってー」
「(タメ口だな。まあいいか)ええっと、席は…」
「座るところはございません」
「なんかひどいですね」
「それに、お客様が食べ終わった後は、座ってなんていられません」
「ほんとひどいですね」
「はい。準備できた。いいよー!」
「ローラか!あ、ちょっと店に来るのが早すぎましたかね」
「そうだよ。えっと?フォーク、スプーンがないんですけどもお」
「見つけましたよ!お客さんが見つけましたよ。さあ、準備はよろしいでしょうか。注文、よろしいでしょうかねえ」
「いいよー!」
「ローラかよ!バイトなのかな、この人」
「はい、やります。やります。ジュルジュルジュル……ジャン」(シャッターが開き、レジのスイッチが入る)
「あ、これ、シャッター開けてんのかな?あ、開いた開いた。やっと…ああ良かった。ああ、そうか。開店前に俺が入っちゃったから、バイトかなんかと勘違いされたんだな?ごめんなさい。スパゲティーください」
「スパゲティーですね」
「はい。先払いですか?」
「ちょっと待って」(奥の厨房でおしゃべりしている)
「はい。お金は後ですかー?……返事がない」
「いいよー。大丈夫」
「まだいいんですね。『いいよー』って、ローラだよ」
「今あっためてる途中なので、混ぜます」
「そうですか」
「こうやって混ぜるでしょ……」(「火は熱いんだよ。気をつけよう」)
「ああ、なんかいい匂いですね。なんか本格的だし。奥から声も聞こえますね。たぶんシェフがいるんだな」
「あのね、あのね。声はしないんだよ」
「あ、声はしないんですね。はい、すいません……僕は何を聞いたんですかねえ…(幻聴か?本当に?)」
「お客様の足音です」
「足音……それだけでしたか?なんかやっぱり聞こえたんですが……ちょっとこれホラーだな」
「ああ、お客さんはこっちを見ないんだよ!」
「ああ、見ちゃいけないんですか?わかりました、はい。あーあ」
「窓ガラス閉めます。で…」
「窓ガラスしまっちゃった。……はあ。携帯でも見ていようかねえ」
(「焦げちゃいそうだよ。焼きすぎないようにね」)
「あの、焦げちゃいそうって聞こえたんですけどねえ」
「それはねえ、私が言ったんです」
「あ、そうですか……あの、店員さん、そんな声でしたっけ?独り言が多いんですか?焦げちゃいそうだねえ、って自分で言ったんですか?あまり、焦げちゃうのは僕も食べたくないですけどね」
「いやいや、焦げは美味しいんですよ」
「ああそうですか?わかりました。じゃあその美味しいやついただきましょうかね。でも、ほどほどに……」
「もう焦げ……てないやつにしました」
「ちょっとそれ、皿からこぼれているの手で掴んでません?」
「オッケー!」
「オッケー。はあ、まあいいか…はい。アメリカ人か」
「で…」
「また手、突っ込んでいるし」
「ハンバーグをのせちゃいます」
「スパゲティーがいちばん時間がかかったんですね。ハンバーグはのっけるだけでできちゃうんですね。うーん…べつにいいです…ああ!手でつぶして…」
「見ないの!(強く視線を遮る)」
「わ、わかりましたよ。見ないです見ないです……どういう風に作られて何ができるんだか……」
「ここに穴あいてるからこやってやって…」
「不安しかないですね。制作過程が…」
「携帯でも見てなさい!」
「見てなさい?はーい。携帯でも見てなさいって言われた。ナニ人のレストランだよ。失敗は見ている俺のせいにされたりするのか?」
「お持ち帰りでよろしいでしょうか?」
「あ、じゃあお持ち帰りでいいです(ほぼ強制的だな…)。はい。椅子もないみたいですし。で、持ち帰り用は、皿に盛ったのを巾着に入れるんですか?スパゲティーを?」
「お子様プレートはよろしいですか?」
「はあ、お子様プレート。じゃあお願いします」
「子供、いますか?」
「子供、います。はい」
「じゃあ、子供もいるっていうことで、はい、どうぞ」
「いなかったらどうなるんでしょう?」
「はい。よろしい(チキンライスをべつの巾着に入れる)」
「うわぁ!その、お子様プレートってのは要するに、チキンライスを巾着に詰め込むってことなんですか?」
「じゃあこれは子供用で、大人用は飛行機ってことで」
「あんまり意味が分かりませんけれど、もしかしたら容れ物のことですか?ああ、容れ物のこと」
「で、お子様のフルーツを入れとこう」
「お子様のフルーツを大人のやつに入れるんですね?」
「大人の人は、昼ごはんもう食べちゃったから」
「ええ?僕、食べちゃったんですか?僕が昼ごはん食べちゃったんですか?」
「うん」
「ちょっと、開店したばっかりじゃないですか?朝ごはんのつもりだったんですけど……そもそも僕はスパゲティーを注文してたので、大人がスパゲティーな感じなんでけど……」
「4200万円です」
「この野郎!ちょっと高すぎでしょうよ!ぼったくりにもほどがある。そんなにありませんよ!」
「行きます!」
「ちょっと!行きますって何?ねえ、あの1万千円しかないんですけど」
「分かりました。1万千円!」
「はあ?それ、有り金全部置いていけってことじゃないですか」
「どうぞー」
「どうぞ……って勝手に、わあああ。あ、千円。千円でいいんですか。はいはい」
「ありがとうございましたー。4200万円お返しでーす」
「4200万円お返し?」
「あのねえ、これが4200万円だってことで」
「これが、ああ、そっかあ。おつり420円のことを、店主、冗談だったんだあ!ね?」
「えー、クレジットカードをここにお挿しこみくださーい」
「は?カードでいくら取られるんですか?やっぱり4200万円だったらどうしよう。カードで…あの、上限ってのがありまして。カードには」
「ハイッ!」(勝手に客の財布からカードを抜く)
「ああ、もう持ってかれた!」
(ピ、とカードを処理する音)「はい、ありがとうございましたー」
「金額はどうなっているんですか!」
「レシートいりますか?」
「ああ、レシートレシート」
「ウイイイーン……はいどうぞ。ありがとうございましたー」
「あの、カードも返してもらう必要があるんですけど」
(カードが雑に渡される)
「あー、ぞんざいな扱いをして」
「4200万円でした。どうぞー」
「ああ、やっぱり420円ってことですね。冗談がきついんだなあ。そしてこれが食べ物ですね?こん中に入ってねえ?はあい。じゃあ」
「はあい、ありがとうございましたー!」
「はい、ありがとうございましたー。ハァ」
〈了〉
なおこのコントは、アンパンマンキッチンとレジのおもちゃを使って娘とお店屋さんごっこをしたときの会話を、ほぼそのまま再現したものである。
コントはこちらもどうぞ。