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【コント(28)】『遠回り(25)』


 (わずかな光しかない場所)

「バルス、バルス、バルスー!」

(バルス、バルス……と声が反響する。水の音もする)

「今度はどこだ。地底人にさらわれて、こんな暗いところに」

「(喉を気持ち悪く鳴らす)」

「うわあ! って神沢さんでしょ。きっとそうでしょ!」

「うわあっ。急に大声を出して脅かさないでくださいよ。びっくりしたなあ」

「あんたが脅かしたんでしょうが。ここはどこですか」

「走れーー」

「(歩くと壁にぶち当たる)」

「そっちじゃない、走れーー」

「(反対に向かっても壁である)」

「いやあ、そっちじゃない、走れー」

「くっそー、絶対に脱出してやる」

「里中さーん、そっちも壁ですよー」

「大きい声出さなくったって隣にいますよ。どっちにも行けないじゃないですか。ここ、丸い牢屋じゃありませんか。下は水浸しだし」

「ご安心にはおよびません」

「安心できないんじゃないか! なんなんですか」

「よくぞ聞いてくれました……なんだと思うー?」

「(叩く)いててて」

「叩かれると思いましてね、ヘルメットをしてきまし(口に指を突っ込まれる)……オホッオホッ」

「ふざけるんじゃありませんよ。いつものパターンだと何かが出てくるな。後ろからとか」

「あー、もうすぐ出るんじゃないですかねえ。出るというか、きっと来るというか……(ちらと上を見る)」

「はあ? ちょっと神沢さん。ふざけないで出口を教えなさいっ!」

「知りませんよ」

「ああ、なんかいやな予感がするんですよ。水が溜まっているからね。えい!(神沢を転ばせる)」

「ああ! 濡れたじゃないですか! もう」

「私もいっしょに転んじゃいましたよ。不覚だな。でも大した水の量じゃありませんね。泥というか。いや、水攻めにあうパターンかと思ったんで先に神沢さんを沈めてあげたんですよ」

「里中さん。最近けっこうけしからんですな」

「こんなあたしにだれがしたんでしょうかね」

「人間の器が小さい!」

「あんたは人としておかしい」

「(立ち上がるついでに)パラパパッパパー」

「なんですか」

「大きなカプセルが出てきましたな」

「何ですか。早く言ってください。また卵ですか」

「これは、服です」

「服?」

「すっかり濡れたから、とりあえず着替えましょう」

「ええ? ああたしかに濡れましたからね。体も冷えてきたし着替えますか」

「頭も寒いでしょう」

「帽子ですか? ならありがたく(長い髪のカツラをかぶる)」

「(笑いをこらえる)」

「あれ? なんか変な感じしません? ねえ、神沢さん」

「うしろー」

「今回はなに」

(待つが何も出ない)

「右!」 

「はあ? ちょっと遊んでないで」

「じゃあ左!」

「じゃあじゃない! どっちですか」

「上でした」

「ええ? あ、頭上にかすかに光が見える」

「さあ、行きますよ」

「え? まじで上? 待ちなさいよ。これ、レンガでできているのかな? ちょっとこれ、落ちたらけっこう危ないですよ」

「そう思って下が泥になっているんという親切設計です。あ、壁にはぶつからないようにしてくださいね」

「はあ? 親切? 私はこんなアトラクションを希望したわけじゃありませんからね」

「地底がいいいですか?」

「なに言ってんだか、まったく。仕方ない。ふうふう」

「さあ、怖いのが出る。きっと来る……」

「あ、天井についた。あ、蓋になっている。外れた。よいしょっと。外に出られた」

(二人は白い服を着て長い髪を垂らしている。リングの歌が流れる)

「来る〜♪」

「はあ? 貞子?」

(カップルが通りがかる。二人を見て悲鳴をあげて逃げ去る)

「ああ、ちょっと。あやしいもんじゃないです。助けてー!」

 〈続く〉

 

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