【コント(10)】 『遠回り(7)』
前回はこちら。
「ついには時代を超えましたね」
「(斧を持ち上げる。手にはウーロン茶を持っている)ウガアア」
「すべてはあなたのいたずらだと思っていたのに、この格好はともかく、恐竜はどう説明したらいいんだか。頭が痛い」
「(斧を持ち上げる)ねえ」
「ねえじゃないですよ」
「あなた月にいたとき、地球に帰りたがってたじゃないですか」
「地球と云ったって、これ、大昔じゃないですか」
「昔話に花を咲かせましょうじゃありませんか」
「そんなのんびりとした昔じゃないんだよ! タイムトラベルしちゃっているじゃないか! あんたといるとろくなことがないよ! ちっとはまともに、脱出することを考えろ! バカ!」
「里中さん、やめてくださいよ。大声を出すのは。私は、昔、トラウマがあって、大きな音が苦手なんです」
「ふん、そうですか。それは失礼しましたね」
「(大声で)なんだその人をバカにしたような言い方は!」
「あなたのほうが声が大きいでしょうが」
「ええっと……耳が遠くてよく聞こえないです」
「だったら大きい音にも困らないでしょう!」
「はあ」
「なんですか、また。ため息をついて。泣き落としはだめですよ。何度も騙されていますからね」
「モノマネも禁止されたし」
「当たり前です」
「ひさしぶりに『名前を当てましょうクーイズ』なんて……」
「結構です。あなたはなにひとつ私のためになることをしてくれたことはありませんでしたからね」
「そう思いまして、今度こそ約束を果たします」
「なんですか。どうせろくなことじゃないでしょう。だいたい約束なんて……」
「里中さんがずっとのぞんでいたことですよ」
「はあ? どういうことですか?」
「ほら、着きましたよ、里中さん。良かったですね」
「はあ?」
「ここが荒羽駅です」
「はあ?」
「だからここが荒羽駅なんですよ……原始時代の」
「……原始時代じゃ意味ないですけれどね……そうですか。(皮肉っぽく)ありがとうございました。ハア。しかしどうやったら未来に帰れるのかな」
「あなた、現代の科学技術に頼ろうと甘いことを考えていませんか?デロリアンか何かがあるとか」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー自体が現代どころか古典ですけれどね」
「ここにどうやって来たか。気づいていないならいいですけどね……ま、気づかないなら、いいですけれどね」
「またあなた、本当はなにも知らないパターンですよね」
「(動揺しながら)……いいですけれどね」
「あなたが気づいているんなら教えて下さいよ」
「………………………」
「ノーアイディアですよね」
「………………………(斧を持ち上げる)ウガアア」
「……あの、神沢さん。ごまかしてますよね」
「ウガアアウガアアウガアア。ウガウガ、ウガー」
「ったく……しかし、タイムトンネルでも抜けてきたのかなあ……」
「タイムトンネルです。正解!」
「あなた答えられなかったじゃないですか」
「いやいや、言ってたじゃないですか」
「あなたウガウガ言ってただけでしょう」
「だから、ウガアアウガアアウガアア、ってのが、タイムトンネル〜って意味ですよ」
「どういう言葉ですか」
「そんなのは常識でしょう。原始人語ですよ」
「まためちゃくちゃなことを。原始人語なんて役に立たないもの、どこで身につけるんですか」
「役に立ちますよお。突然原始時代に来たら困るな、と思って、わざわざ習ったんですよ」
「ありえない」
「バカにしないでくださいよ。私だって努力して、原始人語準二級取ったんですよ」
「いや、あなたに取れないという意味じゃなくて、原始人語なんて習えないでしょ、という意味ですよ。だれが教えるんですか。原始人語なんて!」
「ええっと、ウガゴンさん」
「だれですか、ウガゴンさんって!」
「あの、ネイティヴの」
「原始人のネイティブなんていないでしょう!」
「ええと、日本人講師でした。宇賀ゴンさんです。留学経験のある」
「宇賀ゴンさんって……しかも留学って」
「とにかく毎週プライベートレッスンを受けに行っていたんですよ」
「じゃあどこでそんなもん教えているんですか」
「(困惑しながら)ええっと……あの、代々木原始人語学院」
「そんなのありません」
「失礼、御茶ノ水でした」
「そんないかにも語学教室のありそうなところを適当にあげて……あ、もしかしてあの楽器店とか並んでいる通りの、富士そばの斜め向かいにある」
「そうそうそれ!有名でしょう?」
「明治大学ですね」
「ええーっ! いや、明治大学の原始人語学部卒業です」
「さっき毎週レッスンを受けてたって言ってませんでした?」
「あ、つまりゼミという意味ですね」
「ゼミ?」
「そうですよ。原始人語ゼミ。略して原研」
「プライベートレッスンって言っていたじゃないですか」
「あの、人気がなくて、あたし一人しかゼミ生がいなかったんです」
「人気はないでしょうねえ」
「ああ、とにかく認めていただけましたか」
「べつに認めたわけじゃありませんよ。まったく、適当なことばっかり、私もつい話に付き合って後悔するんだよ……あれ? まてよ? そういえば新聞で見たような。たしか明治大学の久留沢教授という考古学の先生が、原始人語を研究しているっていってたっけ……」
「そう、久留沢教授の久留沢ゼミです!」
「明治大学に久留沢先生という人はいません」
「ちょっと里中さん。あんた嘘つきだ!」
「嘘はいけないことだ、ってのはわかってはいるんですね」
「うっ……ウガアアア!」
「すぐそれでごまかさない!」
「ごまかしていませんよ。今のは、壇蜜に会いたいなあ、という意味です」
「原始人語に壇蜜っていう言葉があるんですか」
「ねえ、ほんとどこにいるんだか」
「あたしが聞いてるんですよ」
「ああ、壇蜜がどこにいるか、と」
「どうしてそう、話がずれるんですかね。べつに私はそんなの知らなくてもかまいませんよ」
「ええ? 信じられないなあ。もし近くにいたらですよ? 気になりません? あたしなんか壇蜜のこと考えると夜も眠れませんよ」
「今の状況なら、まったくそれどころじゃありませんからね」
「たしかに困りましたねえ。……(泣く)」
「ああ、急にどうしたんですか」
「(泣く)こんな時代に来てしまってえぇ」
「ああ、泣き止んでくださいよ。そうかそうか、わかりましたよ。あなたも心細かったんですね。だからバカな話をして、少しでも明るく振舞おうとしていたんですね」
「ああ、里中さん。わかっていただけましたか」
「わかりましたよ。あと何度も言いますけれど、私里中じゃないですけれどね」
「ジャイアントさん」
「ジャイアントでもないですけれどね、はいはい。わかりました」
「そうなんです。心細いんです。原始時代には、壇蜜はいないー!」
(男、いなくなる)
「(泣く)剛力彩芽もいないー、あれ? 里中さん? 里中さん? あああ、里中さんまでいないぃぃぃ……」
〈了〉
ver 1.0 2021/2/7
Ver 1.1 2022/10/22
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