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【ショートショート】 『世界一しょぼいタイムスリップ』

「タイムマシン、ですか?」

 仰々しい装置を前に、マト氏は隣人のツテ博士に質問した。

「といっても時を越えるのは人ではなく超ひも一本。それも2000正分の1秒、プランク時間だけタイプスリップして戻ってくるだけです」

 氏は、僕もひもですが、と言うかわりに「しょぼいですな」と言っちゃった。だが博士は動じない。

「複雑系には充分大きな変化です。勝負の結果も変わり得ます」

 氏の祖父は過去にルーレットでの大勝負に敗れた。それ以前の時間にゆらぎを起こせば、勝ち得るというのだ。

「うちは代々タイムスリップ研究の一家です。私が装置を発明しない世界線もないでしょうからタイムパラドックスの問題も解決。装置のエネルギーは一回分だけです。やってみましょう」



「なにも変わりませんね」

「確率は2分の1でしたしな…」

 だが二人は忘れていた。同じ精子と卵子が出会う確率はゼロに等しいことを。

 ギョム氏とガペンボ博士はため息をついた。


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#世界一しょぼいタイムスリップ


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