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Photo by
kikakuan_turucha
【ショートショート】 『かもしれない弁天』
「社長、社長!」
アノ社長は商店街にチーズ屋、七味屋、寺子屋等を出店している。彼は祝日になると商店街を訪れ、商店街の繁盛っぷりを見て微笑んだ。
だがつきあたりのそこだけは素通りしていた。
「ああ、神主さん」
弁天様を祀る神社だ。商店街の通りも『弁天通り』という。
「社長、たまには寄ってくださいよ。ご利益は商売繁盛なんですよ」
社長は首をひねった。
「ふむ、弁天通りにはお世話になっている。ただ私は神頼みというのをしたこがない。これ以上の儲けもいらんので」
いやいやいや、と神主は手と顔を激しく振った。
「まさかに備える御祈願もありますよ。『かもしれない運転』ならぬ『かもしれない弁天』といったところですなあ」
高笑いする神主に気圧され、社長は御守りをひとつ購入した。
「はあ」
通りを抜ける。車道を挟んだ先に『七福損保』という大手損害保険会社が見えた。
「どうせ払うなら、あっちにしとけばよかった」