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【コント(22)】『遠回り(19)』
(二人、電車を待っている)
「なかなか来ないな」
「(真後ろに立って)電車は本当に来……」
「(急に)クイズでしょ」
「うわあ、びっくりした。やめてくださいよ。突然」
「突然クイズを出す人に言われたくありませんよ。ハーアックション」
「おめでとうございます。念願の荒羽駅に着きました。というか、雨が降っていたのに目の前のラーメン屋に入らないでここまで引き返してきちゃって。すっかり濡れて風邪をひいた。素直にラーメン屋に入ればよいものを、わざわざ戻ってくるなんて。さて問題です。この2番線が目的地に向かう正しいプラットホームでしょーうか?」
「無くなったはずの駅ですからね。まともに電車が来なくてもまったく不思議はありませんね。しかも入り口にいる駅員は1番線ですよって間違って案内して。さっき2番線に乗るはずの電車が来たじゃありませんか。しかし、バスはともかく電車まで用意するなんてちょっと信じがたいですね。小芝居のために、あなたどれだけの資金を投じているんですか!」
「正しいプラットホームでしょーうか? ……ではテレフォーン! (携帯電話を取り出して)お友達と電話が繋がっているので質問してみましょう(電話を渡すが、怪訝な顔をされる)テレフォーン!」
「……もしもし」
「里中さん。お友達はだれでしょうねえ」
《アロー? (フランス語が続く)……》
「あわわ(電話を切る)ちょっと。フランス人じゃないですか」
「あ、切っちゃった」
「また、フランスの政治家と話して国際問題になったら困りますから切りますよ」
「あらら」
「いや、あれも本当ではなかったのか」
「あ、どれも本当ですよ」
「最近、あらゆるものが疑わしいですねえ。はあ、はやく普通の生活に戻りたい」
「まあ都はるみみたいなことはは言わずに」
「私は都はるみやキャンディーズと違ってはじめから普通だったんです。あなたに出会ったからこんなことになったんですよ」
「あ、今度は芸能界? 里中さんリクエストとあれば、用意しましょうか。いや、用意するというか、すべて本当ですけれどね」
「芸能界ごっこもやりたくありません」
「もう引退ですか」
「違います」
「あ、卒業」
「言い方を変えても同じです。最初から芸能人なんてやりません」
「お腹空きましたね」
「またいきなりですねえ。まあ、さっきラーメンを食べませんでしたけれどね。あなたがなにかを仕組んでいそうであやしかったからこっちに戻ってきてやりましたよ。もうあなたの書く脚本には従いたくありませんからね」
「ラーメンじゃなくてそばでもいいから食べたいなあ」(向かいのホームに目をやる)
「あ。あんなところに立ち食いそば。ああ、罠かもしれない。でもお腹減った。なにも食べないよりはましかあ。仕方ない。行きましょう」
(二人、階段を登って1番線に移動する)
「かけぞば二丁!」
「なに私がかけそばって決めているんですよ。あなたの言った通りにするとなにがあるかわかりませんから、うどんにします」
「里中さん、今日はずっと逆らってばっかりだなあ」
「あなたの言うことなんて聞いてたまるもんですか…」
(そばが先にできる。神沢が食べる)
「あの、うどんまだですかね。あ、もう少し。あ、そう」
(神沢が食べ終わると2番線に電車が来る)
「うわあ、行っちゃったあ!……ってあれ? あ、そば屋の店主、さっきのラーメン屋のオヤジと同じ顔じゃないかあ。っていうか、よく見りゃ駅員とも同じ顔だったあ」
(オヤジ、「毎度―」と言い、神沢が笑う)
〈続く〉