【コント(35)】『遠回り(32)』
(禿山の頂上近く。空にはプテラノドンが飛んでいるのが見える)
「どうしてこんなところに来たんだか……」
「私の場合、グリフォンにさらわれて山の頂上に来たかと思ったら、なんか里中さんも瞬間移動でここに来ていたという。奇遇ですなあ。ま、冒険ですからな。そりゃいろいろありますわ。そのほうがまた面白いという。ああ、宝物を持ち帰りたい」
「私は早く帰りたいんですよ。つきあっていられません。せっかく逃れたと思ったのに、もう!」
「ゲームをクリアするのにあせってはいけませんなあ。いきなりひとっ飛びというわけにはいきません」
「ゲームをクリアするのにあせっているわけではありませんけれどね。ただあなたとの時間が長いので、人生を無駄にしているなっていうあせりならありますけれどね」
「まずはレベル上げをしないと」
「ああーめんどくさそうだ」
「めんどくさい? じゃあ一気に経験値をためるために、はぐれメタルを探しましょう」
「私はゲームのリセットボタンを探しますよ。また、はぐれメタルってまた版権に引っかかりそうだし」
「攻略本によると、このあたりがよく出るらしいんですよ」
「話聞いてないし。攻略本があるなら見せてくださいよ」
「え、やだー」
「今ちょっと見えましたけれど、なんか手書きでしたねえ。そもそもこの世界だってどうせ神沢さんが設計したんじゃないんですか? こういうゲームが好きな人にはたまらないんでしょうけれど、強制的に連れ込まれた私は帰りたいだけです。ああそうだ。もう別行動をさせていただきますよ」
「どうぞお好きになさい。ただこの山は最後のモンスターを倒さないと帰れないことになっています」
「さっき見たグリフィンですか? 神沢さんをここまで連れてきたやつ? 逃げればいいでしょう」
「グリフィンじゃないんです」
「あれ、ラスボスだったんでしょう?」
「ボスの後には本当のラスボスがいまして、その後には……」
「あー、まだ続くんですか」
「そういうわけで、私ははぐれメタルを倒しますので、里中さんはモンスターを倒しておいてください」
「なに人にミッションを押しつけてんだ!……ってうわ、なんか出た! え? この顔形は、仕事人?」
(『ふじたまことがあらわれた』というアナウンスとともに、剣を持った藤田まことが現れる)
「さあ、闘って」
「うわわわわ。なんで役名じゃなくて役者の名前なんだ。っていうかそんなことより、仕事人だったらこの人強いですよ」
「やるしかありませんな。行けー」
「ヨガー瞬間移動!」
「逃げようと思っても無理でしたな。もうサトリッパはマジックポイントが8しかありませんな」
「なんだよ、それ!」
「瞬間移動にはマジックポイントを使いますからな」
「くそー! ってうわっ、斬りかかられた! やばいやばいやばい。ちょっと!」
「サトリッパが今残っているマジックポイントで使える魔法はポンプとクシャーだけですな」
「ポンプ」
「サトリッパぁ、ポンプするなら事前に金魚飲んでないとぉ」
「神沢さん、そんな呑気なこと言っている場合じゃないです。斬られ……」
「私は神沢グレートです」
「なんでもいいからさぁ、あんたも早く闘って」
「わかってませんなあ。ソードがないんですよぉ」
「ないんですよおじゃないでしょう。わたしだって持っていませんよ。マジックポイントを回復する薬とか持ってないんですか!」
「ポーション。『私の渇きを癒しますよポーション』です」
「それ、ただのウーロン茶でしょう!」
「150円もしましたよ。いや、スーパーで買ったから125円か」
「ただのってそういう意味じゃないですよ。ってか、割引品ってせこいですね。(また斬りかかられる)って、それどころじゃない!」
「これを飲むと私が魔法をかける気になります」
(飲む。パラパパパパという効果音が鳴る)
「じゃあ魔法を使ってください。早く」
「はいはいはいはい
ケン!」
(北斗の拳のBGM)
「なんだ? 剣が現れるのか? でもこの曲って……」
(神沢の筋肉がむきむきになり、上の服が破ける)
「これ……」
「オレはケンシロウ」
「いいかげんにしろ! バカンザワ!」
「(ケンシロウの声で)バカンザワ? オレは昔のオレではない。ハァァー。アタ〜!」
「イテ! なんで俺を襲うんだよ!」
「(ケンシロウの声)経絡秘孔の一つをついた。お前はもう(吹き出す)」
「ケンシロウのものまねして自分で笑うのやめなさいよ」
「(ケンシロウの声)……お前は30あるオレのマジックポイントを譲渡された」
「はあ?」
「(ケンシロウの声)さらに、目醒芽琉という経絡秘孔のひとつをついた。これでお前はもう、秘奥義、浦夢譜と苦紗亜と紗輪亞を使える」
「なんかまた新しい呪文を、こんな遠回しなやりかたで……」
「浦夢譜は飲んだ金魚を口から出し、苦紗亜は顔をくしゃくしゃにする……」
「それは前に聞きましたよ。ああ、もういい(刀で襲われているのをなんとか手で止めている)なんか新しいのもあったな。試してみるよ。
紗輪亞!」
「(ケンシロウの声)それは、最終奥義……」
(アナウンス『紗輪亞がふってきた』)
「シャワーですね。これ」
「(神沢の声に戻る)ああ、ちょっとだけ違いますな。よく見てください」
「ケンシロウはもういいんですか?」
「(ケンシロウの声)よく見てください」
「ケンシロウが、見てください、とは言わんでしょう。っていうか俺、突っ込んでいる余裕なんかないんだけれど。
あ、プテラノドンが真上を飛んでいて……ええ?」
(藤田まことが、「うわっ、汚ねえ。娘に嫌われる!」と言って退散する)
「プテラノドンが空からおしっこをするという魔法かあ」
(レベルアップの音。連続して鳴る)
「ずいぶんとレベルアップするな」
「『はぐれけいじをたおした』というアナウンス)
「はぐれメタルじゃなくてか……」
〈続く〉