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【コント(21)】 『遠回り(18)』


 (二人歩いている)
 
「さあて、今度は本当に迷ってしまった」
「(少し後ろからついてきて)迷っているのはだれでしょうかクーイズ!」
「……」
「せっかく荒羽駅に着いたというのに、バスを降りて引き返す側のバス停に行こうとしちゃって。でもなかなかわからなくて、気がつくとバスが行っちゃって。次は三時間後まで来ないから隣町まで歩こうという。結構ですな。それで道に迷ったと。これは素直に荒羽駅に行けばよいものを、なんだかいやがって歩き出してしまった。さて問題です。今私たちが迷っているのは、里中さんのせいである。マルかバツか」
「今は無くなったはずの駅に行ったってろくなことがあるわけがないでしょう。あなたの息がかかっているに決まっているんだから。乗っていたバスだってあなたがなにかどうにかしたんでしょう。いつもの手で大掛かりに舞台を用意して。それも小芝居をさせるためだけに……」
「シンキングタイム中ですね? ではヒーント!(メモ帳を取り出して)ここに資料があるので見てみましょう。あれあれ? そもそもの発端は里中さんが道に迷っていたところから始まっていましたね」
(早歩きをする)
「おや、ジョギングですか。いいですな。さらに資料によると、最初に警察署に行こうとしたとき、中央警察署に行くはずだったのに八曲がり署なんていう警察署に行ってしまったのはだれでしょう? ごまかしてもだめですよお」
「う」
「里中さあん。だれでしょうねえ」
「ちょっと顔が近いですよ。やめてくださいよ」
「(低い声で)ずばりあなた、方向音痴ですね」
「い、いや」
「あ、違いました。(メモを見ながら)方向音痴クソ野郎でした」
「これまでのあなたの小芝居、メモに取ってあるんですか」
「あ、見ちゃだめですよ。なにするんですか。失礼な」
「どの口が他人に『失礼』なんて言いますかねえ」
「これは極秘情報なんですよ(鉛筆を出してメモを取る)」
「ろくでもない計画が書かれているんでしょう。もうあなたには関わらないと思っていたのに……」
「まあつれないことは言わずに」
「私はあなたを刑事告訴したいんですよ」
「あ、今度は裁判もの? そこまで言うならちょっと考えておいてあげましょうか」
「私があなたに望むのは目の前から消えてもらうことだけですよ」
「なんてことを言うんですか!」
「本心です」
「目の前から消えてってねえ。イリュージョンは準備が大変なんですよ!」
「イリュージョンもやめてくださいよ。神沢さんがやるとどんな事故が起こるかわかりませんからね」
「お腹、空きましたね」
「いきなりですねえ。……まあ、空きましたね。けっこう歩きましたし」
「里中さん、ラーメン食べたいです」
「ああ。食べたいなあ。……って、これでうっかりラーメン屋に入ると、そこで小芝居が始まるんじゃないでしょうかね。ええ? 私も疑い深くなっていますよ」
「でもさっきからまともに食事のできそうなところはありませんよ? (神沢、鼻をくんくん鳴らす)。あ、近くにラーメン屋があります」(本当に見つかる)
「これ、絶対仕組んだでしょ」
「フフフ」
「入ってたまるもんですか……って、うわ、雨だ!」
 

〈続く〉


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