【コント(19)】『遠回り(16)』
(コンビニエンスストアの事務室。店長と監視カメラの映像を観ている)
「あ、この人ですよ。神沢さんと名乗っている人です。はい。説明するとめんどくさいんですが、駅までの道を尋ねた相手です。正体不明の変な人なんですけれどね」
(画面では神沢が店員の服を着て忍び寄る)
「ああ、後ろから、近づいて。あ、僕が倒れた」
(店長、うなずく)
「いやあ、呼んでいただいてありがとうございます。コンビニの監視カメラに妙なものが映っているって最初に言われたときには、僕が万引きでも疑われているのかな、とか思ってびっくりしたんですけれど。こういうことだったんですかあ。見つけていただいて助かりまし……」
(画面の中に、黒子の格好をした複数の人物が現れる。画面の神沢のセリフ)《ご苦労さん》
「……ああ、僕が運ばれていく! あれ、神沢さんの手下? うわあ。うわ。僕、こうやって拉致されていったんだあ」
(画面では黒子たちは去り、神沢だけが残る)
《おや?》
(神沢が監視カメラに気づいた様子でこちらを見る)
《あ、あー、これはミューチューブの撮影です。里中さんというちょっと困った人に対してですね、ドッキリをしかけているところでして》
「今里中って言いましたけれどねえ、私はあの人に勝手に里中って呼ばれているんですよお」
(店員が無言で驚き、また憐れむようにうなずく)
「あの人は私をさらっては、妙なシチュエーションのところに連れて行っていたんですねえ」
《(甲高い声で)エッキーだよ!(怖い声で)閻魔大王だー》
「あれはですねえ。あの人すぐ何かになりきるんです。こういう一人のときに練習しているんですよ、きっと」
《(かしこまって)この紋所が目に入らぬか!》
「大岡越前です。水戸黄門と間違えているんです」
(しばらく店長とビデオに見入っている)
「あ、突然ですけれど、このコンビニ、セットだったりはしないですよね。あなたも本当の店長ですよね」
(店長が不意をつかれたような顔をし、慌ててなんどもうなずく)
「つい疑う癖ができてしまって。あと、机の下とかロッカーの中とかに神沢さんが潜んでいたりしないですよね。あ、普通にドアから『社長です』とか現れるパターンなんかも考えられます。いや、ほんとすいません。あの人にはさんざん振り回されているというか弄ばれているんで」
《(山の神の声で)それほどでも、ないでえ?》」
「なんかうまいこと話が噛み合いましたね。これは山の神っていうキャラクターなんですよ。変な人でしょう」
《変ではないでえ?》
「いやずいぶんと話が噛み合うなあ。これ、録画って言いましたよねえ。密かにリアルタイムだったりしないですよねえ」
(店長は否定する。それから画面を見て何かに気づき指をさす)
《さて、麻酔を補給しないと》
「麻酔って。ああ、腕時計に何かセットしている。これ、名探偵コナンと同じじゃないですか」
(ちょうど画面内の店内のCMが『名探偵コナン』である)「なんか音楽まで一致してしまっているし」
《さあて次は江戸時代だな。その次も考えておかないとな。どうしようかな。霊能者とかに合わせようかな》
「ああ、こうやって僕を弄ぶシチュエーションを考えているんだ。いやね、私はこのあとですけれど、さっき練習していたでしょう? 江戸村かどっかに運ばれて、彼の小芝居に無理やり付合わされるんですよ。ほんと信じられないでしょう? 意味わかんないですよね。変な人なんです」
《里中衛門、神妙にいたせえ!》
「なんだかまた噛み合ったな。まあいいや。このビデオなら立派な証拠になりますから、本物の警察署に、いや警察署はたいてい本物なんですが、この前八曲署っていう偽物の警察署に行っちゃったんで……いや、どうでもいいです。とにかくこの動画をお借りします」
《なんてね。里中さん。きっとあなたはこのビデオを観ているんでしょう。私にはまるっとお見通しだ!》
「え……」
(凍りついた後、店長を見て、あとずさりする。店長は手と首を振る。それから別のビデオを用意し、早送りする)
「え? あ、これにも神沢さんが出ている」
《なんてね。里中さん。きっとあなたはこのビデオを観ているんでしょう。私にはまるっとお見通しだ!》
「……さっきと同じセリフ。もしかして」
(別のビデオを観る)
《まるっとお見通しだ!》
(店長が耳打ちする)
「ええ? この人、来るたびにカメラに向かって同じこと言ってんの?」
(神沢がいろんな角度から同じセリフを言う場面だけを編集したビデオが流れる)
「この人、私を驚かせるためだけに、どこでもこう言っているんですね」
《(声高らかに)まるっとお見通しだ!》
〈了〉
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