【ショートショート】 『バイリンガルギョウザ』
「そんなのはギョウザじゃない!」
「美味しんぼみたいなこと言われましても…」
社長が課長に、パーティーで中国の厚い皮の大きなギョウザを出すように命じた。
だが課長は専務に、餃子は日本風の小さなものを、と言われていたのだ。
「で、あなたが…」
「バイリンガルシェフだ。これまでバイリンガルカレーやバイリンガルラーメンといったメニューを作ってきた」
「今回は餃子ですが」
「中間サイズにする、全要素を盛り込む、いっそピロシキにする、といろいろあるが、もっとも重要なのは…」
「重要なのは?」
「強い側につく」
「あの、ちゃんと考えてください」
「まあ任せろ」
「社長の言った通りにしました」
「うむ」
パーティーは盛況であった。課長は苦々しい顔をしている専務に近寄り、耳打ちした。
「食べればわかります」
怪訝そうな顔をしていた専務だが、一口かじると笑みがこぼれた。もちもちのギョウザの中に、薄皮の餃子が入っていたのだ。
「食えんやつだな」
「舌も皮も、二枚がうまいんで」