【ショートショート】 『忘年怪異』
「忘年会、来ないよね。いや、飲み会離れした若者に無理強いはしないよ。それに昭和屋は古いし、年末は怪奇現象が起こるからね」
若手たちの顔色が変わった。
「課長、本当ですか?」
「あ、おどかしてごめんね」
「いや、行きます」
「へ?」
なんでも、若者の怪異離れは起きていないのだそうだ。
「俺、霊媒師呼びます」
「動画、回しますね」
「チラシは今、パットPPTで作りました」
あれよというまに忘年会の準備が整った。
当日。
店主に頼んで電気を消してもらった個室内に、黒服のイケメン霊媒師のマントラが響いていた。
「こりゃ忘年会というより忘年怪異だね、なんて親父ギャク言う空気でさえないね」
たじたじとなる課長をよそに、みな真剣に霊媒師を見つめていた。
卓の上のろうそくがゆれた。
「忘年会に、人が来ない…」
その幽かな声に、課長ははっとした。「部長!」
いつになく新人が集まったその忘年会を最後に、昭和屋の怪異はおさまったという。