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【コント(11)】『遠回り(8)』


(会議場。人が大勢いてざわついている)

 「いささかましなところには来ましたけれどね」

 「ハーイ、ミスターサトナカ! ハロー!」

 「みなさんが喋っているの、フランス語みたいですよ」

 「アー、ジュテーム」

 「告白されてもしかたありませんよ。まったく。ここ、どこですか。なんか、国際会議みたいですけど。まったくまた、なんでこんなところに」

 「原始時代にいたときは、未来に帰りたいって言ってたじゃないですか。命の危険はなくなりましたよ」

 「まあたしかにそうですけれどね」

 「ね。この状況を喜ぼうじゃありませんか」

 「そんなこと言っている場合なのかな」

 「里中さん、なんか、質問されていますよ」

 「え? いや、私は……」

 「(小声で)なんか答えないとまずいですよ」

 「ええ……賛成です」

 (歓声)

 「ああ、なんかうまくいったようですね」

 「早くここを出たいですよ」

 「ちなみに今のは、日本が軍事政権化しているが、このまま武装化を進めていくことに賛成か、という意味でしたね」

 「なんですって? そんないい加減なことを……」

 (スライドが日本の自衛隊の写真になる)

 「うわっ、本当じゃないですか!」

 「だからそう言ったんですよ」

 「ちょっと神沢さん、なんとかしてくださいよ」

 「モノマネをですか?」

 「そんなんじゃない! これ、日本の外交に関わることじゃないですか。どうにかしないと」

 「はあ、そうですか」

 「なんなんですか。落ち着いている場合じゃないでしょう」

 「それより荒羽駅ですよね」

 「荒羽駅どころじゃないでしょ。これで私が一言言葉を間違えたら、戦争になっちゃうんですよ」

 「ええ? 戦争?」

 「そういうこともあるってことです。だからなんとかしないと」

 「そういうことでしたら……やっぱめんどくせー」

 「はあ?」

 「なんか最近やる気がないんですよ」

 「やる気ってあなた。いや、あなたに期待するのが間違いでした。やる気を出してもろくなことしませんでしたからね」

 「あなた、武器がなければ戦争にならないとか、安易なこと考えていませんか?」

 「いきなり神沢さんに、政治的なことを言われましたねえ。ああ、たしかに、武装することによって国際的に対等な地位を得られれば、戦争を回避できるということも」

 (歓声)

 「な、なんですか? 今の歓声は」

 「ああ、細かいことは気にしないでください」

 「なんかあったんですよね」

 「まあまあいいじゃないですか」

 「教えて下さいよ」

 「今のあなたの発言で、日本の核武装化が決まりました……」

 「嘘ですよね!」

 (フランスの首脳が握手をしてくる。二人とも応じる)

 「アロー、アロー。ウィ、ウィ」

 「この人だれ?どっかで見たような気もするけど」

 「いやあ、ただのフランスの大統領ですよ」

 「フランスの大統領って! あの、神沢さん。何て言っているか判るんですね? 通訳してくださいよ」

 「今のを通訳すると、ウガ、ウガガガガア、ウガ、ゴンゴン、イテっ!」

 「だれが原始人語に訳せって言いました!」

 「あ、日本語ね。すいません。あたし原始人語学部卒なんでついつい」

 「いいから早く意味を」

 「我が国の核爆弾を買ってくれてありがとう、って」

 「そんなああ!」

 (大統領、笑顔で話す)

 「うちの爆弾は国際法に違反して実験を重ねたから、どの国よりも最新技術が搭載されているよ、と言ってますよ」

 「また、風刺まで効いたネタになっちゃって。いったいどうしてこんなことになるんですか」

 「要所要所で私が里中さんのマイクをオンにしましたのでね。あとは同時通訳の人が勝手に……」

 「あなたのせいじゃゃないですか」

 「いやいや、言ったのは里中さんですから」

 「違うでしょう!」

 「ああ、ムッシューサトナカね。フランスですからね」

 「そういうことじゃない!」

 「これで核戦争決定ですな」

 「ちょっと待ってください!」

 「もう、調印ですよ」

 「そんなめちゃくちゃな。そもそも私は外交官じゃありませんよ」

 「ねえ。こんな機会は滅多にありませんから、いい思い出になりましたね」

 「いい思い出じゃありませんよ」

 「まあまあ、多少の失敗はいいじゃないですか。旅の恥はかきすてと言いますし」

 「いや、かきすてられる恥じゃないでしょう! 核戦争なんて」

 「まあまあ、里中さん」

 「なんですか!」

 「あ、空気を読んでムッシューサトナカ」

 「だからそういうのはいいって! だいたいあなたに空気は読めません」

 「わたしもちょっと焦ってきましたよ」

 「そりゃそうでしょう。日本の、いや、世界の危機かもしれないんですよ? 今ならまだ間に合います。誤解を解いてください」

 「いやー、わたしはフランス語は聞けても話せないんですよ」

 「どうやって勉強したらそういうことになるんですか」

 「あ、フランスの原始人語なら喋れますよ。壇蜜はンゴゴ、って言うんです」

 「原始人が、しかもフランスで、壇蜜って言葉を使うんですか。そもそも壇蜜にンゴゴって、原型を留めていないじゃないですか」

 「ねえ、ほんと難しいんですよ。しかもこれが、文章の中で変化までするんですよ?」

 「原始人語の勉強をしているんじゃありませんよ」

 「ああ、原始フランス語はいい、と」

 「当たり前でしょ」

 「ええ?信じられないなあ。ンゴゴオ、ンンゴオゴオ、とか」

 「なんですかその、ンゴオゴ、ンゴゴオゴって。首相も呆れて……」

 首相「ガウガ、ガウガウー(大喜びする)」

 「あれ、どうなっているんだ?これ」

 神沢「あ、ヤッバー」

 「ちょっと、なんですか。教えてくださいよ」

 「ああ、里中さん。首相も原始フランス語を話せるんですよ」

 「話せるんですか!」

 「それで、今ムッシューが言った言葉は偶然、おたくの原爆さえあれば、一緒にアメリカを攻撃することができる。大船に乗ったつもりでいてくれよ。成功の暁には……」

 「そんなに長いんですか?」

 「そうなんです。それが原始人語の特徴なんですよ」

 「で、その成功の暁には?」

 「壇蜜に会わせますって」

 (首相)「ダンミツー!」

 〈了〉

 

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