【コント(18)】『遠回り(15)』
(警察署内で動画を見せている)
「この人は神沢さんと名乗っています。はい。知り合いというか、駅の近くで道を尋ねたってだけの関係ですから。あと、神沢と名乗っていただけで本名かどうかさえ知らないんですけどね?」
(そこに男が現れる。警官一同が敬礼し「お疲れ様です」と言う)
「ご苦労」
「……そもそも荒羽駅というのが実在しない駅だったらしくて……(しげしげと男の顔を見ながら)神沢さん?」
「(一瞬だけ目を合わせ、そむけ、メモを取る)ふむふむ」
「ちょっと。この人が神沢さんですよ」
「ああ、君が被害者の里中さん?」
「今里中って言いましたねえ。この世で私のことを里中って呼ぶのは神沢さんしかいませんよお」
「いや、妹も里中さんと言っています」
「一族はそうでしょうねえ」
「申し遅れました。私八曲がり書捜査一課の、ボスです」
「ボスって名乗るボスはいないでしょう」
「ボス沢です」
「ボス沢ってなんですか。ところで、駅の妖精と言えば?」
「(甲高い声で)エッキーだよ」
「神沢さんですねえ。今度は警察官になりきったんですか。じゃあこれもみんなセット?」
「セットなんかではないんですよ。なあ、綿パン」
(刑事の一人が首を振る)
「あなたのあだ名が綿パン? 松田優作がやっていたジーパン刑事の真似ですか? 古いですね」
「ああ、口癖が『なんですか、これは?』なんで」
「『なんですか、これは?』って、『なんじゃ、こりゃあ』に比べれば随分とレベルダウンですねえ。だから綿パンなんですか」
「しまむらの綿パンです」
「いやしまむらでもユニクロでもいいですけれど」
「うたれたときに『なんですか、これは?』って言ったんです」
「撃たれたって、いや生きているでしょう」
「ムチで打たれたときに」
「わわわ! ちょっと、SMじゃないですか。性癖をさらしてどうするんですか」
(綿パン)「なんですか、これは!」
「言わなくていいですよ。ひっどいあだ名だなあ」
「いや、本人も納得済みですよ。『SMって呼ばれるのとどっちがいい?』って聞いたら『綿パンの方がましです』って」
「だめでしょ、それ。パワハラでしょうよ。って、刑事さんのあだ名の由来なんかどうでもいいですからね。それより、また突然セットが変わってとんでもないところに行かされたりしないでしょうね。お遊びなら帰らさせてもらいますよ。っていうか、あなたに対して被害届を出そうと思ってやってきたのに、これはどういうことですか」
「では、さっそく逮捕令状を」
「はあ。あなたがあなた自身を捕まえるんですか? それともまだ別人だと言い張る。その顔で」
「里中さんねえ。ちょっとお静かに願います」
「本物の警察に行かせていただきます」
「本物ですよ。ほら、この警察手帳が(急に荒っぽい声になって)目に入らねえか」
「遠山の金さんのときの言いかたになってますよ」
(神沢の警察手帳が、どう見てもちゃちである)
「『こどもけいさつ』って書いてあるし」
「あー、こどもとか青少年の非行を取り締まっている警察、という意味です」
「いや、こどもけいさつってそういう意味じゃないですから。子どものおもちゃの警察手帳でしょう。あ、ハッピーセットとか書いてあるじゃないですか」
「あらら?(慌てて確認する)」
「はあ。だれか、手錠を持ってませんか」
(綿パンが手を挙げ、手錠を渡す)
「これ、刑事ごっこをしているから持っていたんじゃないでしょう? 趣味のほうで持っていたんでしょう? いや、いいですけれどね。さて」
「ああ、なにをするか。無礼者。うわっ(手錠をかけられる)」
「私人逮捕です。神沢なにがし。私への拉致監禁罪により、警察に連絡します」
「助けてー」
〈了〉