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【コント(12)】『遠回り(9)』
(診察室。机の上にウーロン茶がある)
「最近、頭痛がするんです」
「はい」
「いや、正直心当たりはあるんですけれどね。あの、わたし、突然砂漠に行ったり、海底に行ったりして……あ、頭がおかしいと思われるかもしれませんけれど、ほら、先日フランスでの国際会議で一般人が紛れ込むという事件があったでしょう。あれ、私なんです。いや、ひどい人につかまってしまいましてね。それで振り回されちゃって。もう、頭痛つづきなんですよ」
「はい」
「あれ? 先生? 先生? ああっ!」
「ハロー!」
「神沢さん」
「ああ、そうすると、睡眠のほうはいかがですかな?」
「いかがですかな、じゃありませんよ。まったく。どうしてこんなところにいるんですか。医者のふりをしているみたいですけど」
「当院院長の、神沢です」
「ここ、山田病院ですよね。なんで山田病院なのに院長が神沢なんですか」
「ね。まさか、と思うでしょ」
「そんなことして何になるんですか」
「えーと、頭痛でしたね」
「え?っ ていうかあなた医者なんですか?」
「(小声で、ためて)……はい」
「いや、なんで小声で言うんですか」
「……」
「また嘘をつきましたね。医者じゃないんでしょ?」
「失敬だな君は。侮辱は許さんぞ。謝りたまえ!」
「じゃあ本当に医者なんですか?」
「(小声で)医者です」
「だからなんで小声で言うんですか」
「謝りたまえ!」
「謝ってほしいのは私ですよ」
「ああ、処置を誤ってもいいと」
「あやまるが違うでしょ! だれが医療ミスをしろと。そもそもあなた、仮に医者だとして、腕は確かなんですか?」
「(小声で)大丈夫です」
「大丈夫じゃなさそうですね。どう見ても自信がなさそうですね」
「(小声でなにか言う)」
「えっ(耳を近づける)」
「謝りたまえ!」
「帰ります」
「ああ、見捨てないでください」
「見捨てますよ」
「見捨てないでくださいー。こんな診察室で、見捨てられたら……」
「砂漠や宇宙じゃないから、見捨てられても平気ですねえ」
「診療拒否とはひどいじゃないか! 訴えてやる」
「だれかに訴えられることはあっても、訴えることはできないでしょうね」
「じゃあ通報してやる」
「おそらく通報するとあなたがやばいことになる予感がバンバンしますねえ」
「じゃあ手術してやる!」
「手術を人を攻撃する道具にしないでください」
「メス」
「……手だけ出しても、助手はいませんよ」
「はい、ちぇんちぇい」
「久々にきましたねえ。モノマネというのか、一人二役というのか」
「これは助手です(助手)はい、ちぇんちぇい、汗をふきまちゅ」
「頭痛がひどくなってきた。もういいかげんにしてください。そもそもいきなり手術はないでしょう。ええ? 医者ならまず問診でしょう?」
「問診? ええと、じゃあ、願い事は?」
「ジニーじゃありませんよ」
「(ジニー)願い事を言え〜」
「砂漠の悪夢がよみがえってきましたね。ジニーって言った瞬間に、顔がうきうきしましたもんね。そうじゃなくて、どんな風に痛いのか? とか、いつから痛いのか? とかそういう5W1Hとかを聞くんでしょ?」
「ああ、はいはい。TENGAは、いつも持ち歩いていますか?」
「なに聞いてんだ? あんた?」
「だからナニを聞いてるんですけれど。ポータブルの一人エッチって」
「5W1H! だれがエッチの話を聞くんですか!」
「ああ、素人さんはこれだから困るなあ。エッチは大事ですよ。妊娠しているかもしれないじゃないですか」
「私は男です!」
「ええっと、性別は男、と。ふーん、妊娠の可能性は消えましたねえ」
「あんたの診察じゃ、いつ診断がつくかわかりませんよ。そもそも私が痛いのは頭です。お腹じゃありません」
「ああ、素人さんはこれだから。妊娠も頭痛がすることがあるんですよ」
「だから男だって。それ、聞くまでわからなかったんですか。申込書にも書いてあるでしょう」
「ああ、ええーっと、聞くのはなんでしたっけ?」
「それをあんたが聞いてどうするんですか! 5W1H!い つ、どこで、だれが、なにがってあるでしょう!」
「ああ、いつ、エッチを……」
「Hから離れろ!」
「いや、ナニがって言いましたからね」
「そっちじゃないって」
「はいはい。ええっと頭痛ね。ええっと、どこ、にいると頭痛がしますか?」
「どこが痛いかじゃなくて、どこにいるとって……まあ、とんでもないところにいるとか、あるいはここですけれどね」
「ええっと次は、だれ。だれが痛いんですか?」
「それ聞かなくても私に決まってるでしょう!」
「ああそうですね。間違いました。だれといると頭が痛いですか?」
「あなたですねえ。それもほとんど聞く前にわかりそうですねえ」
「ああ、私といると自分のことを冷静に判断できると」
「あなたが私の頭を痛めているという意味です」
「私はあなたの頭を叩いたりはしていませんよ?」
「それに匹敵することをしているんですよ。あなたといると頭痛がす・る・ん・で・す」
「私はあなたといると、呼吸が苦しくなったりすることがあるんですよ」
「あなたのことなんか知りません」
「あと、あなたといると、胸が苦しくなったりすることにしているんですよ」
「しているって言いましたねえ。わざとやっているのを認めましたねえ。とにかくあなたの質問は、ぜんぜん医者らしくありませんねえ」
「謝りたまえ!」
「プライドだけは高いんですねえ。あなたの職業は?」
「(小声で)医者です」
「それだけ声が小さくなるわけだ」
「(小声で助手)じょちゅでちゅ」
「助手も小声になっちゃった」
「いやいや、これからですよ。ちゃんと医者らしいことを聞きますよ。ああ、この問診票に沿って聞けばいいんだな。ええっと、お酒は飲みますか?」
「まあ少しはそれっぽくなってきましたね。はい。瓶ビール一本ぐらいですね」
「はい、ビール一本!」
「は?」
「飲みますか? って聞いて、はい、って答えたんだから飲むんでしょ?」
「それ、お酒をすすめてくれたんですか?今 ここで?」
「(助手がビールを持ってくる)ビール一本でちゅ〜」
(叩く)
「ああ、子供を叩いた! 虐待だ」
「中身はあなたでしょ。だいたい昼間っから診察室でビールなんか……こらっ、飲むな!」
「飲まないんですか?」
「飲みませんよ」
「ああ、ソフトドリンクですか。私のウーロン茶は、あげませんよ」
「あんたウーロン茶になるとケチになるな」
「失敬な! 謝りたまえ!(ウーロン茶を飲もうとして、ビールを飲む)」
「ああー! 飲んだ。この人、勤務中にビールを飲んだ」
(ここから、食事時の放送ならカット。特にスポンサーがビール会社のときは禁忌。
「ビールじゃありませんよ。検尿です」
「汚いっ!」)
「(瓶を見る)あ、ノンアルコールビールか。なあんだ」
「ええっと、ビールは飲まない、ウーロン茶は飲ましてもらえないってところまででしたね」
「え? ああ、まだ診察しているんですね」
「そうですね」
「もう期待はしていませんけれどね。次の質問なんですか」
「タバコは吸いますか」
「吸いません」
「なんて言いました?」
「は? 吸いません」
「やっと謝りましたな」
〈了〉