
薬と注射の備忘録(4) 認知機能の回復
福祉と援助の備忘録、統合失調症の認知機能障害(CIS)からの回復の話をする。今回はほぼ私の考察である。
定型抗精神病薬とか第一世代抗精神病薬と呼ばれる統合失調症の古い治療薬に対し、新しい薬は非定型抗精神病薬とか第二、第三世代抗精神病薬など呼ばれてきた。それらの薬は幻覚・妄想といった激しい症状(陽性症状)を抑え込むだけでなく、「低下している認知機能を改善する効果がある」と謳われた。
残念ながらそのようなことを示すたしかなエビデンスはない。抗精神病薬の効果については新旧どれもさほどの違いはなく、新しい薬ほど副作用が少ない、ということが言える程度である。次々と新薬は創出されるが、いずれも魔法の薬と呼ぶには程遠い。薬剤メーカーはいささか誇大広告をしてきたかもしれない。
それどころか、眠気やだるさが少ないはずの新世代薬でも、旧世代の治療者によって大量に処方されれば、患者の思考力は下がる。
いつの日か薬で認知機能を上げることができるようになる日は来るかもしれない。そう期待はしたい。いっぽうで「なかなか難しいかもな」と個人的には思う。それは「リハビリテーション」という視点で考えたときの結論である。その私の考察を述べていこう。
リハビリテーションというと一般的に思い浮かべられるのは、整形外科のものである。ギプスを巻いて長らく歩けなかった人が、歩行訓練によってまた歩けるようになる、というあれだ。
精神科リハビリテーションというのも構造は同じである。長く社会に参加していない、あるいは活動を控えていたために、脳の機能が低下する人がいる。なら「活動・参加を徐々に増やすことによって機能を回復させれば良いじゃないか」と考えられる。脳トレである
整形外科のリハビリで鍛えられるのは筋力だ。他にも、バランスを保てるようになるだとか筋肉が強調して動くようになるだとかいった要素もあるが、ざっくり言えば筋力回復である。
筋力を決めるのは筋肉量だ。鍛えれば自然に増えるように筋肉はできている。あえてその鍛えるということをせずに筋力をつけようというドーピング、チートには少し無理がある。全否定はしないが、そういうものに頼るとしっぺ返しがあるのは想像に難くない。医療ではそれを副作用と呼ぶ。副作用は果たして効果に見合うものか、場合場合で検討する必要がある。
さて、骨折した人のための痛みや炎症を抑える薬があったとしよう。副作用も少ない良い薬であるという噂である。そのとき
「この薬には、筋肉を増やす効果もあるらしいですよ」
と報告する人がいたらどうだろう?
鎮痛剤が筋肉を増やす? 真っ先に疑うのは、「痛みや炎症がおさまって、よく運動するようになったために筋力がついたってだけじゃないか?」ということだ。
おそらく新規の抗精神病薬も、副作用が少ないために今までよりよく飲まれ、それで治療効果がよく出た。すると患者さんたちは活動的になり、その結果認知機能も鍛えられてしまった、ということではないか。それが一部の研究報告の、認知機能の回復を示すデータとして現れたのではないだろうか?
「使えば機能が増す」「使わなければ衰える」は、認知機能についても言える。機能・能力を伸ばすほうの医療が必要である。
Ver 1.0 2022/7/6
Ver 2.0 2022/7/11 これは薬と注射の備忘録シリーズの方がふさわしかろうということで、テーマ、タイトルごと変えた。
【補足】ただ、抗精神病薬に認知機能の改善効果はなさそう、というのが現代の見解である以上、新規抗精神病薬の認知機能改善効果の誤りについての私の仮説を研究でたしかめる必要まではないだろうが。
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