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【コント(36)】『遠回り(33)』


(二人きりで広い草原を歩いている)

「ああ、ピクニックは楽しいですなあ」

「どうしたらそう思えるんでしょうね。私はただただ帰りたいです」

「サトリッパはもっとこの大自然を楽しまないといけませんなあ。のどかな草原じゃありませんか」

「さっそく目の前にティラノサウルスが見えているのにですか?」

「あれま」

「……あぁ、どうしてこんな目にあわなきゃらないんだか」

「(大声で)どうしてこんな時に現れるんですかー!?」

「なに大声出しているんですか!」

「いや、サトリッパの声が小さいので、伝えてあげたんですよ」

「ティラノサウルスの注意を惹きつけるようなことは、やめてください!」

「あー、そこはT Rexって言ってほしいなあ」

「そんな呼び方なんかどうでもいいですよ。それより私が使える魔法はなんですか?」

「なんでそんなことを聞くんですか?」

「決まっているでしょう。戦闘のためですよ」

「ほう、サトリッパもやっとやる気を出してくれるようになりましたな」

「そうしなきゃ死ぬでしょう! さっさと教えてくださいよ」

「えーと、レベル11になりましたから…」

「バルスは?」

「それは使えないんですよ。たしかにレベル10から使えるんですが、マジックポイントを溜めないと」

「じゃあくださいよ。また」

「ウーロン茶?」

「マジックポイントです!」

「どうしよっか……」

「ええい(神沢の足を引っ掛けて転ばせる)」

「うわっ、なんてひどいことを」

「恨まないでくださいねっ」(逃げる。だが、ティラノサウルスはむしろそちらを追う)

「サトリッパ〜、逃げようと思っても無理ですよー。T Rexは動くものを追いかけるって、ジュラシックパークで習いませんでしたかー」

「知るかー、そんなことー」

「瞬間移動のマジックポイントは足りないし、マギーをするにも、T Rexに縦縞はありませんしなあ」

「ちょっとー、助けて助けて助けて助けてー!」

「サトリッパが新たに使えるようになった魔法のうち、今残っているマジックポイントで使えるものは……ゲンジとヘイケですね」

「なら勝ったほうで。ゲンジ!」

「あ、その魔法は」

「うわわわわ……(足元が揺れる)」

「靴がローラースケートになってしまうんです。運動神経が良ければ足が速くなりますが、こういう草原では……」

「(転ぶ)光GENJIのほうか! 今さらだれがそれを思い出すっていうんだ!」

「でもヘイケは平家みちよですから、光GENJIのほうがまだましかと」

「知名度はどうでもいいよ! それよりT Rexを倒す魔法を教えろ」

「私もそんなに魔法には詳しくないんですよ。なんかほかの有名人の名前で、T Rexよりも強そうなものを言ってみてください」

「和田アキ子!」

(空中に鐘が現れ、鳴る)

「あの鐘を鳴らすのはサトリッパでしたな」

「吉田沙保里!」

(無音)

「あー、サトリッパぁ。芸能人じゃなきゃずるいからだめっていう決まりなんですよぉ」

「そんなこと知るか!」

「ほら、文句を言っているヒマはありませんよ。T Rexがもう近くに」

「芸能人じゃ強くないだろ」

「代表作で強い役をやった芸能人でもいいんですよ。

「仲間由紀恵……」

(T Rexが一度止まり、それから確実に近づいてくる)

「ああ、どうしてそれ選んじゃうかなあ」

「貞子の役をやっていたから最強かと思ったのに。マイナー過ぎたのがダメだったのか」

「いや、リングっていうのまでは良かったんですけれど、おかげで敵が『きっと来る』ということに」

「じゃあ、阿部寛! ケンシロウの声優をやっていただろう!」

「残念ですね。トリックの上田が『どーんと来い』とよく言っていたので、どーんときます。はい、T Rexが増えちゃったと」

「ちょっと神沢さん、楽しんでません?」

「ほら早く。次」

「強い役、強い役……」

「メンタルが強い役でもいいかもしれませんよ?」

「なんだよそれは。あの子はなんだったっけ。とにかく、おしんの子役!」

「ブブー。正確に答えないとだめです」

「クイズじゃないんだから」

「思い出せるものはなんでもいいから、強い役を言ってください」

「安達祐実!」

(シーンとする。T Rexの動きが止まっている)

「ほお、その呪文にたどりつきましたか。さすがですな」

「はあ、助かった『家なき子』のすずだっけ? やっぱりメンタルが強かったんだ。これからはぜんぶこの魔法で乗り切ろう」

「安達祐実といえば映画の『Rex』に決まっているでしょう。だからT Rexだけは言うことをきくんですよ。他の敵には使えません」

「知るかよ。『Rex』なんか」

(レベルアップの音。『T Rexがなかまになった』というアナウンス)

「え? 仲間?」

「これからはT Rexもいっしょに闘ってくれます」

「おお、それは助かりそうだ。これまでは、さんざんだったからなあ。もう気が狂いそうだ」

「それはそれはお気の毒に」

「なにを言ってんだ。マジックポイントひとつ分けてくれなかったくせに。あんたの同情なんてねえ、口だけだよ」

「あ、『同情』って言っちゃいましたか。まだ魔法は効いているのに」

「は? なに言ってんの? 魔法って? あ、さっきの安達……」

(空中にずっとあった鐘が落ちてきて、T Rexたちをつぶしてしまう)

 

 〈続く〉

 

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