【ショートショート】 『沈む寺』
《日が沈む六日寺》
ようやく読み取れたその一文が、オカルト界隈で注目されていた。
明治時代に書かれたメモだ。予言の書と噂が高い。なんせ「未来を読む男」という異名を持つ有名な将校が折に触れては目を通していたというのだ。彼が大国との戦いで善戦できたのもこの文書のおかげであるという。
あいにく大半が焼けにじみも多く、ごく一部しか判読できない。
後半に書かれたこの一文は、日本の重大な予言だという説が有力であった。
ただ、「六日寺」の意味が不明だ。
「そんな名前の寺はないな」
「ポツダム宣言のことを比喩しているに違いない」
「いや、GHQの文字がここに隠されているのさ」
「いやいや。この予言はこれからの日本を示しているんだ」
まことしやかな解釈が、さまざまな者によって唱えられるのであった。
* * *
「日が沈む。六時」
将校は大事のなかったその日のことを、波に揺れる艦内で記録していた。