【コント(29)】『遠回り(26)』
(少し暗い部屋で。ときどき不気味な女性の笑い声がする。悲鳴も聞こえる。神沢は喉を気持ち悪く鳴らす。格好は呪怨の伽倻子。カップルが通りがかる。神沢が近寄る。カップルは神沢を見て「うわー」と言って逃げ去る。満足げな神沢)
「へへへ。(振り向く)ってうわーっ、貞子!」
「さっき私の姿は見ていたんじゃないんですか」
「ちょっと脅かさないでくださいよ。あ、私の格好も怖いでしょう?(脅かすが、リアクションはない)あのカップルはひどく驚いていましたよ」
「神沢さんはこういうの好きでしょうけれどね。ずっとやっていればいいじゃないですか」
「ちょっと貞子さんもまじめにやりましょうよ」
「雇われた覚えはないんですけれどね。まさかお化け屋敷で働いていることになっているとはね。これ、バイト代ちゃんと出るんだろうな」
「ご安心にはおよびません」
「出ないんですか! なんなんですか。帰りますよ」
「あ、貞子は嫌ですか? じゃあ伽倻子と取り替えてあげましょうか?」」
「大して変わりばえしませんよ。そもそも貞子と呪怨、両方はいらないでしょう」
「よくぞ聞いてくれました」
「聞いたわけじゃないんですけれどね」
「貞子と伽倻子は映画で闘ったことがあるんですよ」
「ホラーには関心がありません」
「あ、どうなったか知らなくていいんですか」
「まったく関心がありません」
「ああ、ネタバレはされたくないと。わかりました。ブルーレイを貸してあげましょう」
「貸してくれなくて結構ですから」
「里中さん。そう、遠慮はせずに(ウーロン茶を飲む)」
(次のカップルが来る。慌ててカップルの前に躍り出る神沢。すると「うわ、伽倻子だよ、これ」と女が言い、「ウケる」と男が言う)
「ありゃ? 怖がりませんな」
「古いしベタすぎるっていうのもあるでしょうが、顔が男な上にウーロン茶のペットボトルを持っているっていうのがいちばんだめでしょうね」
「幽霊もウーロン茶ぐらい飲むでしょう」
「飲まないと思いますれけれどお、仮に飲むとしてもその姿を見せたら怖くなくなりますよ」
「ならば工夫をします。パラパパッパパー」
「幽霊なのに明るいですね」
「カプセルが出てきました」
「またカプセルですか。中身はなんですか。次の衣装ですか。でも嫌な予感しかしませんけれど」
「落ち武者セットー!」
「神沢さんねえ。伽倻子のほうがましですよ。いや、女装よりはましか」
「だめですか? 矢が刺さっているのって(頭に矢の刺さったカツラをかぶる)」
「滑稽ですね」
「だめですか? 里中さんもちょっと」
「(一度カツラをかぶらされかける)やめてくださいよ。この白いドレスに、頭だけ落ち武者って、ウケしか狙っていないでしょう。だいたい今時落ち武者で怖がる人なんかいませんから」
「ええ? 落ち武者は永遠のテーマだと思っていたのになあ。じゃあどうしましょうねえ」
「知りませんよ。やりすごすだけです」
「じゃあ、セリフを工夫しましょう。あなたの後ろにいるわ」
「メリーさんねえ。それも古いとは思いますけれど」
「あなたの上にいるわ」
「新しいパターンではありますが、意味不明ですね」
「あなたより立場が上にいるわ」
「怖いというより腹立たしいですね」
「向かいの部屋にいるわ。引っ越してきたわ」
「ストーカーですね。さっきの伽倻子の格好のときにやったらちょっと怖かったかもしれませんけれどね」
「体育館の裏にいるから、来いよ」
「不良ですか。別の意味で少し怖いというか、でも古いというか」
「事務所で待ってるから必ず来いよ」
「反社は怖いですけれどねえ。そういう怖さを求めるのがお化け屋敷じゃないでしょう」
(リングの歌が流れる)
「来る〜♪」
「ああ、こういう音楽は大事ですよね。ちょっとこの歌は雰囲気があって怖いですよね」
「ああ、それなら私、もっと怖い歌を知っていますよ」
「いちおう聞くだけ聞いてみましょうか」
「来ない〜♪」
「来ないなら怖くないでしょ」
「いや、これが怖いんですよ」
「どう怖いんですか」
「来ない〜 今月はまだ来ない〜♪(見上げるような目で迫る)」
「そっちかい!」
〈続く〉