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【コント(20)】『遠回り(17)』


(バスの座席にて)

 

「さあて、この映像を持って今度は本物の警察に行くぞ。前は偽物の警察署にまんまと行ってしまったからな」

「(後ろの席から)ざんねんないきもの事典によると、『ナウル共和国』はアホウドリのうんこでできている、と。今度はここにしようかな」

「(硬直しながら)振り向くのが怖いけれど、もうわかっているぞ。そうだ、動画を回しておこう……」

(スマートホンを取り出す)

「おや、里中さん」

「(スマートホンのカメラを神沢のほうに向け)この人が犯人です」

「おや? 今度は刑事の設定がいいですか? あ、いやだめですよお、里中さん。先日八曲がり署をやったばかりじゃないですかあ。かぶらないように設定を用意するのも芸の見せ所ですよ」

「(飽くまで動画のアナウンスとして)彼は今、私のことを里中さんと呼びました。ですが、私は里中ではありません」

「里中さあん。だれに向かって話しているんですかあ。私はこっちですよ」

「無視するとそろそろ始まります」

「(低い声で)山の神もおるでえ」

「ほら、出ました。勝手になりきるキャラクターのひとつ。山の神です」

「(スマホを覗き込む)何をしているんですか、里中さん?」

「動画を撮っているんですよ。証拠のためにね」

「あ、ミューチューブ? なにやってくれちゃってるんですかあ。あなた、迷惑系ですね?」

「どの口が他人に『迷惑系』なんて言いますかねえ」

「勝手に撮られても、私にも肖像権があるんですよ(櫛を出して髪を整える)」

「見栄えを気にしている場合じゃありませんよ。あと肖像権は一般人にはありませんよーーそもそもミューチューブじゃなくてただの証拠動画ではありますけれどーー勝手にミューチューブを撮るな、と言うなら、あなただってコンビニで言っていたじゃありませんか。ミューチューブで私にどっきりをしかけるとかなんとか言い訳して」

「なんでそれを!」

「監視カメラを観たんですよ。実際にはどっきり以上にひどいことしれくれてましたね」

「あ、ほんとはデカ長の役のほうをやりたかったとか? なら最初から言ってくださいよお」

「私はあなたと小芝居をやりたいわけじゃないんです。毎回毎回次から次へと違う設定で飽きもせず。さっきもなんか言っていましたねえ。アホウドリのうんこでできた国? 行きたくありませんからね」

「じゃあどこがいいですか?」

「どこにも行きませんよ。あなたとは。それよりも本物の警察署に行かなきゃね。八曲がり署じゃなくてね。証拠動画はありますからね」

「なんですと? ひどい。訴えてやる」

「訴えるのは私ですよ」

「(凍りつく。ひどく小さい声で)……(徐々に聞こえる声で)里中さん、里中さあん、(大声で)さとなかさあああん!」

「うるさいですよ。客がいたら迷惑ですよ。いないけど、私には迷惑です。大声じゃなくても迷惑です」

「ついに最終兵器を出さなくてはならなくなりました」

「麻酔銃はやめてくださいよ。それ、暴力に相当しますからね」

「時計型麻酔銃のことまで気づいているなんて。この極秘兵器を」

「どっかのマンガのぱくりですけれどね」

「そんな些細なことはけっこう。それよりも里中さん。最終兵器ですよ。奥の手ですよ。とんでもないことが起こりますよ」

「今さらたいていのことでは驚かなくなっていますよ。ええ? 次はなんだっていうんですか。次は」

《次は、荒羽駅です》

(神沢、手だけ動かし、『停まります』のボタンを押す。ピンポンと鳴る)

『次、停まります』

(二人、顔を見合わせる。神沢、ニヤリと笑う)

 〈了〉

 

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