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【コント(30)】『遠回り(27)』
(女性は床にSAと指で赤い文字を書いた状態で部屋に横たわっている。虫眼鏡を持った神沢がドアを開ける)
「実況見分は済みました。皆さん、お入りください」
(男女がテーブルの周りに集まる。皆は「神沢探偵」と言う。神沢は満足げにパイプをくわえている)
「いや一同集まっていただき恐れ入ります。ああ、サトソンくん。遅かったね。さて、推理ショーを始めるよ。ついに犯人がわかりました。それをお伝えする前に、サトソンくん。この事件、君はどう見るかね」
「……」
「サトソンくん?」
「……今度は探偵ごっこですか」
「その推理は(パイプをくわえる。煙は出ない)……ハズレだ!」
「神沢さんが探偵ごっこで遊ぶのは結構ですけれどね。私は興味ありませんよ」
「(耳打ちする)ちょっとまじめにやってくださいよ。集まっていただいた皆さんに失礼じゃないですか」
「謎解き推理イベントに参加したつもりはないんで、帰りますよ」
「帰れませんよ。外は大嵐で電波も圏外です。この人里離れた洋館は外部との接触が完全に絶たれているんですからな」
「まーたありがちな設定を」
「そんな中、内側から鍵をかけられ密室だったこの居間で悲鳴が聞こえたのが今朝の7時00分。その直後に扉が壊されて開けられると被害者が横たわっており、ダイイングメッセージが書かれていた、と」
「人里離れた洋館と、密室と、ダイイングメッセージ。ミステリーの定番がみんな来ましたね。なら凶器は毒ってところですか?」
「カップからは青酸反応……ってサトソンくん。私のセリフを途中で止めないでくれたまえ。いいところなんだからね。じゃ、続き行くよ? 真実はいつもひとつ!」
「神沢さんのパターンがいつもひとつですね。ベタをやるっていう」
「凶器は特定されたところで、次は犯人だ」
「私に対してしたいろんなことの犯人なら神沢さんですけれどね。早く捕まってほしいですよ」
「なーるほど探偵が犯人と。さすがサトソンくんもミステリーにはくわしいな。だが君はひとつの可能性を見落とした。犯人は変装して紛れている!」
「よくあるミステリーの要素をさらに追加でぶち込んできましたね」
「なぜなら、ルパンとホームズが出てくる話があるからだ!」
「それ理由になってませんから」
「真実はいつもひとつ!」
「嘘は無数に出てきますね。まあそもそも私はこのお遊びに関心がないからどうでもいいですけれど」
「サトソンくん。君は財布の行方を知りたくないのかな?」
「はあ? あ、僕の財布がなくなっている」
「これですべての証拠はそろった。犯人はサトソンくん。君だ!(皆驚く)。なぜならダイイングメッセージにSAと書いてある。しかもTの横棒が書きかけだ。すなわち里中と書こうとしたということだ」
「今日は里中でいいんですか?」
「あ、サトソンだ」
「どっちの名前も僕の本名じゃありませんけれどね」
「ふっふっふ。言い逃れても無駄だよ。証拠はここにある!(床を掘るふりをして、テーブルの下から拾う)」
「うわー、またカプセルですか? 床が掘れないからそんなところに置いておいて。そんなの推理じゃないでしょう」
「財布だ!」
「ああー! 僕の財布。返せ!」
「ほほう。これがあなたのものだと認める。これは現場に落ちていた。あなたの指紋がついている。つまりあなたが犯人ということだ! この中に青酸カリを入れていたんだろう!」
「だから財布は盗まれたんです。僕は被害者ですよ。ここに入るのも今初めてですからね」
「おうおうおう。貞子に変装していたこともわかっているんだ。まるっとお見通しだ」
「久しぶりに金さん入れてきましたね。貞子の格好していたの認めますけれどね。好きでやったんじゃありませんけれど。あ、でもそれですべてわかりましたよ。犯人が」
「え? なんですと? 真実はいつもひとつですよ。ふたつ目はナシ」
「ほんとに青酸反応なんか出たんですか?」
「名探偵コナンでやっていたように、硬貨を紅茶につけたら色が変わったんだ」
「酸化反応はレモンティーでも起こります」
「え? そうなの? じゃあ、ダイイングメッセージはどう説明する」
「この女性、左手にペンだこがありますね。ということは左利き。カップも左手で持って置いた様子です。でも左利きなのに右手でダイイングメッセージを書いている。ミスリードを狙った犯人のしわざですね。さて神沢さん。この世で私のことを里中と呼ぶのは誰でしょうね」
「私の妹か!」
「妹を売る兄を、真っ先に疑うべきでしょうね」
「だが、トリックがまだ明らかになっていない」
「変装ですよ」
「変装? ではこの中にルパンか怪人二十面相かキッド様が……」
「伽倻子ですね。さっきまで着ていたでしょう。神沢さんが呪怨の伽倻子の格好をしていた。女性はそれを見て気絶したんでしょうね」
「み、密室はどう説明するんだ」
「あなた内側から扉を開けたでしょう。密室どころか最初からこの人といっしょにいたんでしょう。それで悲鳴をあげられて、とっさに探偵の格好をしたんでしょう。小芝居をして、あたかも外から事件解決のために呼ばれてやってきたようなふりをして」
(女性が伸びをして起きる)
「ほら目覚めた」
「犯人は……俺だ!」
「……要するに自供ですね。とにかく認めましたね」
「ふっふっふ。わっはっは。グハハハアハ」
「はぁ。狂った」
「甘いなサトソンくん。君はミスをひとつ犯したな」
「みなさーん。壁を押さえてください。この人、呪文を叫んでセットを壊すしかけを作るのが得意ですから」
「バル……えー! そこまで読まれているの?」
「さあ、神沢さん、観念してください。すべてまるっとお見通しですよお」
「ええい。こうなったら。バルサン!」
(室内が白い煙で充満する)
「ゴホッ、ゴホッ。くっそー、これは読めなかったあ!」
〈続く〉