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【コント(27)】『遠回り(24)』


(前回の続き)

「バルス」

(大きな音とともに二人が穴の中に深く深く飲み込まれていく。場面が変わって二人は横たわっている)

「はっ。ここはどこだ。ああ、そういえば穴の中に落ちていったんだった」

「(目覚める)ふああ。さあて、次はペルシダーか」

「神沢さん、今なんと?」

「うわあっ。里中さん。目覚めたんだったら言ってくださいよ」

「それよりも今なんか言ってましたよねえ。ペル……?」

「走れ、走れーー」

「(冷めた目で見ている)」

「走れ、走れ。ほら、里中選手、走れ。ちょっと今のことを忘れるために走れ走れ」

「今、都合の悪いことを聞かれたから言ってるんでしょう。これも全部神沢さんが仕組んだんですね」

「いやあ、なにをおっしゃっているのやら」

「とにかく脱出してやる」

「里中さーん、どこ行くんですか。私を置いて行かないでください」

「今走れって言ったでしょう。だから行きますよ。まったく今度はどんなコンセプトに巻き込まれるんだかわかりませんけれど、身構えておかなきゃね」

「何を言ってるんですか、すべてはリアルなんですぞ。私が作りあげたりした世界ではないんです」

「もういいです、白々しい。ここはどこなんですか」

「よくぞ聞いてくれました。地下の帝国、ペルシダー!」

「はあ。漫画の世界ですか」

「漫画とはなんですか。エドガー・ライス・バロウズのSF大作ですよ」

(睨む)

「へ?」

「小説ね。現実ではないことを認めましたね」

「走る!(神沢は走り出す)」

「逃げるんじゃありませんよお! 神沢うしろ!」

「な、なんですか。プテラノドンがもう放たれたんですか?(空を見回す)」

「はあ? ちょっと神沢さん。今プテラノドンとかって……」

「なんでもありません。ペルシダーは代表的なロストワールドの古典とか、そんなそんな」

「ああ、もうやぶれかぶれだ。先にやられる前に、えい!(穴を掘り始める)」

「ああ、私がやる前に!」

「あ、やっぱり何か出てきた。これ、ボーリングの球?」

「里中さん。勝手に掘り出して。けしからんですな」

「はいはい。あなたのシナリオ通りに行かなくてすいませんね」

「そんなちっぽけなことを私は言っているんじゃない」

「じゃあ何が悪いってんですか」

「パラパパッパパーって言ってないじゃないですか」

「(グーで鼻を殴る)」

「はふぅ」

「早くこれが何か言いなさい」

「それは……」

「これは?」

「いいものです」

「だからあ! いいなんですか」

「(小声で何か言う)」

「聞こえませんねえ。どうせつまらないものでしょうけれどね」

「(静かに後ずさりしている)」

「(彫ったものを眺めながら)まったくこれは、爆弾? なら利用できるかもしれないな……ってあれ? 神沢さん」

「(そおっと)さとなか、うしろー」

「ん? たとえ仕込みであってもなんとなーくいやな予感」

(ティラノサウルスが後ろにいる)

「里中さんが拾ったのはティラノサウルスレックスの卵ですよ。親恐竜が怒っています」 

「そんなあ、早く言えー!」

「じゃあ略してTレックスの卵!」

「そういう意味じゃない!」

「私はまたシューズを履いたので里中さんよりは早く走れます」

「ああ! うわっ(神沢に転ばされる)」

「里中さんのことは忘れません(一目散に逃げる)」

「待てこのヤロー! あれ?」

(地底人たちがやってきて恐竜を倒す)

「助かったあ。ありがとうございます。ってお礼を言ったってどうせ神沢さんの仕込みなのかな? でも気のせいか、人間じゃないようにも見えるんですけれどね」

(また神沢が近寄ってくる)

「ちょっと、この人たちは何なんですか?」

「地底人ですな」

「はあ? 地底人?」

「はい。閻魔様に舌は抜かれたくありませんので正直に言ってます。地下世界の地底人です」

「まあどうでもいいです。もう恐竜の仕掛けとかやめてください。大きいから危ないですから。しかしまあリアルに作りますよねえ。バカをやるのにどれだけ準備するんだか」

「あの、恐竜はまだそんなに危険ではありません」

「なに言ってんの」

「本当に怖いのは……」

「あれ? あれ?(槍を持った地底人に取り囲まれる)」

「手遅れですな」

「なんですか、ちょっと! ええいこうなったら、バルス」

(何も起きない)

「ああ、ちょっと。攫われていくー。助けてー!」

 〈続く〉

 

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