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【コント(15)】『遠回り(12)』


(娘に、里中さんをニンジャ時代に送れ、という指令が出たので送ってみた)


 

(手裏剣が飛んでくる。町人が、忍者に囲まれる)

「お助けください!」

(通り過ぎる侍)

「ああ、お侍さま。助けてくだされえ」

「みなさん、ご苦労様です。いや、大掛かりな芝居ですよね。ええ、わかっています。みんなこの男に振り回されているんでしょう」

「ちょ、ちょっと。なに言ってくれちゃってるんですか。里中一刀斎」

(だまって刀を抜く)

「あ? やっぱり助けてくださるんですね。お侍さまあ」

(だまって神沢を切り捨てる)

「うわああ、やられたああああ」

「しばらく黙ってください」

「うお、うおうおうお。うおおお。うお? ちょぬるうぅうぅ」

「早く死になさいよ(蹴る)」

「ああ、ちょと。乱暴だな」

「いいんじゃないですか。私、この忍者たちの仲間だったってことで」

「なんと! さあては、おぬしがすべてをたくらんだのかあ」

「あの、今さら睨まれてもねえ。切られたあとでしょ」

「あ、そうだった。うぉ。ぅおぉぉぉぉっぉおろお ぶげばばばばば」

「だからあ。なんですか」

「神沢です」

「知ってますよ。どさんぴんのね」

「里中さん。いや里中一刀斎。今日は冷たいなあ。あ、でもねえ、あっしを甘く見ると後悔するぜぇ?。よっ!(煙玉で煙幕をはる)」

「うほっ。うへっ(咳き込む)なにをやってくれているんですか。まったく」

(煙が消えると、神沢、後ろ向きにうずくまっているだけ。刀の鞘で叩かれる)

「ぴやあ」

「ぴやあってなんですか。また。とにかくねえ。もうわかってしまったんですから。すべてセットとかで、あなたがすべて仕組んでいるんだってね」

「そんな。セットなんかではないんですよ。なあ、みんな」

(忍者たちが苦笑する)

「江戸時代にセットっていう言葉はありませんけれど通じていますね(カツラをはずす)」

「ああ、それはずしちゃだめですよ」

「つけている理由がありません。ごっこ遊びはごめんです」

「なんか、きっと、罰せられますよ」

「仮にここが江戸でも、髪型で罰せられることはありませんねえ」

「変な人だと思われますよお」

「おそらくここは日光江戸村かなんかなんでしょうね。そこを一歩出ると、変なのは神沢さんですね。出なくても変ですけど」

「荒羽駅に着けませんよ」

「もうとっくに荒羽駅は目指していません」

「これが目に入らぬか」

「印籠とかどうでもいいし」

「余の顔、見忘れたか」

「忘れたいですね」

「もう! こうなったら。ええい(やみくもに煙玉を投げつける)」

「わわわ! ちょっと、やめてくださいよ」

 

(突然セットが倒れて、黒子が次のセットを用意する。場面は奉行所になる。一同、役人に額づかされる。北町奉行・遠山左衛門尉様のご出座あいぃ! という声が聞こえる。神沢が、大岡越前のテーマ曲を鼻ずさんで遠山左衛門尉として現れる)

 

「(額を床につけながら)ああ、鼻歌が大岡越前だし。あれ、南町奉行所だし」

「一同、面をあげい」

(ははあ、と一同面をあげる)

 

「素浪人里中一刀斎。その方は忍びの者と手を組み、町人神沢に悪巧みを行なったということで相違ないな」

「悪巧みはそっちでしょう」

「無礼者! 口を慎め」

「はいはい。じゃあたまには乗りますよ。お奉行さま、めっそうもない。私めに悪巧みなどするつもりは毛頭ございません。それともなにか証拠でもございますのでしょうか?」

「おうおうおう。黙って聞いてりゃいい気になりやがって」

「ちょっと展開早すぎますねえ。まあ早く終わらせて欲しいんですけれど」

「この桜吹雪が目に入らねえか」

「はいはい。はぁ?」

(神沢の背中の刺青が、汗で溶けている)

「あのお、神沢さん」

「無礼者。遠山左衛門尉である」

「いや、それだと証拠にならないでしょう。商人がいないんだから。そんなことより、刺青が消えかけていますよ。桜吹雪がぐちゃぐちゃですよ」

「なんだってえ?(無理やり背中を見ようとする)」

「はーあ(上段まで上がり、神沢のカツラを取って自分がつける」

「これ、やめんか。無礼者。うわっ(ひきずり降ろされる)」

「(神沢の代わりに座って)裁きを申し渡す。神沢なにがし。罪なき者を拉致して振り回した罪により、島流し!」

「ははあぁ」

(頭を下げる)

 〈了〉

 

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