【ショートショート】 『書庫冷凍』
「図書館って…」
書庫を冷凍しつつついたため息が凍った。
国連の機能の一部が人工知能に委ねられることになった。手始めはユネスコで、南極に図書館建設の指示が出た。
閲覧・貸出もない、本を開くことさえ不能な図書館だ。AIが選出した図書を書庫ごと氷漬けにするのだ。図書の保存のためにずいぶんとアナログな手段を選んだものだ。
館長といってもだれの上に立つでもなく、本さえ選べない。氷を一度解かし、書庫を漬け、天然の寒さで凍らせる。
図書の選出基準も不明だ。娯楽の書物はないが古典的名著もない。猛勉強して国際司書として働いてきて館長になったのに、AI様にただ従うブルシットジョブをするだけとは。
だがついに冷凍書庫の意義が明らかになる日が来た。人工知能時代の戦争は核が使われることはなく、昔ながらの火が使われたのである。多くの書籍が焼けた。
冷凍書庫には、人工知能を復旧させるだけの情報科学の知識だけは残っていたのだ。