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読んだつもり? (3) ライバルの同盟、あの人は立会人でしかなかった!
司馬遼太郎 『竜馬がゆく』から
坂本龍馬の名前が、最近、歴史教科書から消えかけた。だが「龍馬を消さないで」という強い陳情があり、とりあえず免れた。
・・ということをテレビ番組で知った。
長州だけでは倒幕は叶わない。そこで長州が憎んでいる薩摩と手を結ばせよう、というのはすばらしく大胆な発想だ。龍馬はそのお膳立てをし、両者が顔を合わせたが、双方ともになかなか同盟の話を自分の側からは切り出さない。
「長州がかわいそうではないか」
と龍馬が言ったことで、西郷どんが同盟を申し出るに至ったというのだが…
これがどうも怪しいらしい。
私も、坂本龍馬にはあこがれた。いろんな人と友達になって、己の発想と行動力で世を動かしていく。とはいっても、己がやっているのは商売であって、歴史の表舞台に立つのは由緒正しき偉い人に任せてしまう。この立ち位置が好きだ。要はアイディアの提供と仲介をする役である。
だが歴史家たちは薩長同盟について、龍馬はたまたま近くにいて立ち会っただけ、と言う。たしかに近くで見ていただけの人であるならば、教科書に載せるような人物とは言えない。いやそもそも有名な割には、歴史教科書の中での扱いは小さかった。私も小さい頃から竜馬の本を読んでいたから、必死で教科書の中に探したが、
「薩摩と長州は、土佐の脱藩浪人、坂本は龍馬により薩長同盟を結び・・」
と、一行にも満たぬ扱いなので驚いたものであった。
さらに言えば、薩長同盟だって曖昧なものである。「薩長同盟」などと書かれた文書は存在しないのだ。これは密約であり、長州側の書き残しはあるが、本質は口約束である。
ところがである。子供向けの日本史の本では、幕末を扱った巻はほぼ坂本龍馬が表紙絵になる。人気で言えば新撰組なんてのも出てきそうだが、確実に龍馬である。
人気はそのまま人々の歴史観に影響する。「坂本龍馬が薩長同盟を結ばせた」と千べん言えば、事実になってしまう。キリストの復活も、もしかしたら同じようなものだったのだろうか。
もちろん、坂本龍馬が海援隊を作って商売をし、また多くの人々と交友を持っていたという事実には疑いがないであろう。彼は人に愛される人であった。時代を超えたグローバルな発想を持っていたというもの事実であろう。だが、それはそれである。
私があこがれていたのは龍馬ではなく、竜馬であったようだ。
Ver 1.0 2023/1/21
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