【コント(16)】『遠回り(13)』
(娘は、神沢さんは背後霊だ、と断言する。よってそういうことになった)
(暗いおどろおどろしい雰囲気の部屋で、着物を着ている霊能者の女性がうつろな目で話す)
「背後霊が見えます」
「え、背後霊? そんな。怖いですよ。どんな霊なんですか」
「悪霊です」
「そ、そんな。そんな邪悪な霊なんですか」
「邪悪というか、タチの悪い霊です。悪質です。性格が悪い」
「性格が悪い? なんとなく怖さがトーンダウンしましたね」
「中年のラフな格好をしたとぼけた男の背後霊です」
「私、なんとなーくいやな予感がしてきました……」
「カ・ン・ザ・ワ」(バタンと倒れる)
「うわあ! 背後霊が神沢ってことか。たしかに悪いわ。あ、待てよ? ということは……そういうことだったのか」
「さとなーかーさーん」(神沢、背後からいつのまにか現れる)
「うわあああああ(女性の持っていた儀式用の棒を取ってポカポカ叩く)」
「痛い。痛い。ちょっと。里中さん最近乱暴だな」
「いいでしょう。あなた、背後霊だったんですね?」
「ああ、ついにバレてしまいましたなあ」
「これですべてがわかりました。だから神出鬼没だし、すべてはあなたが起こした幻覚だったんですね」
「ふふふふふ。うぉほほほほ。うわっはっはっは(勢いづきすぎて咳き込む)」
「霊なのにむせるんですか」
「どうも、神沢です」
「今さらですね」
「どうも、背後霊の、かんざわですぅ〜うらーめしーやー(手を前に添えると、あたりはいっそう暗くなり、人魂が現れる)」
「悪霊退散!(ボコボコに叩き、最後は蹴る)」
「ちょ、ちょっとお! いくらなんでもひどいですよ」
「でもあなた、霊なんでしょう。なんでそんなに痛がるんですか。足もあるし」
「この世に未練を残した強い霊は、実体を持つんですよ」
「なんとなくまっとうなことを言いますね(棒で突く)」
「あたしはいつもまっとうですよ」
「それはないでしょう(棒でおでこを刺し、ぐりぐりねじる)」
「いや、そんなこと……って、やめてくださいよ」
「私はあなたになんかとりつかれたくないんですけれどね。そもそもどうして私にとりついたんです」
「なんか、ちょと面白そうかな、と思って」
「通り魔と同じですね。迷惑極まりないですねえ。決めました。お祓いをしてもらいます」
「ああ、そんなことをすると、とんでもないことになりますよ」
「……当ててみましょうか。『荒羽駅』に着けなくなりますよ、とか言うつもりだったんでしょう」
「うっ」
「図星だし」
「(一度後ろを向いてうろつく)ふうー。こうなったら。すべてを知っていただきますか」
「あれ? 消えてしまった。今回は潔いんですねえ」
(突然霊能者が起き上がる)
「ああ、大丈夫でしたか」
「あなたは呪われています」
「悪い霊にとりつかれていることはついさっき思い知りました」
「いいえ。呪いはそれだけではありません」
「といいますと?」
「(急に置いてあった水晶を見つめる)駅が見えます」
「ああ、水晶占いもするんですねえ。なんかいろいろごっちゃになっている感じがありますが、はい、駅といえば思い当たる駅がありますけれど」
「その駅の名前を教えていただいていいですか?」
「はい。その水晶に見えないんですか? はい、まあ答えますけれど、荒羽駅です」
「そんな駅はありません」
「そんなまさか。僕が鹿山市にで迷ったときに、いちばん近い駅がその駅で……」
「いえ、その駅は、五十年前になくなっているんですよ」
「なんだって?」
「つまりあなたは、駅の呪いにかかったと言ってもいいのです」
「駅の呪いって。ではその呪いをかけたのは誰なんですか?」
「(霊能者が急に甲高い声になって)エッキーだよー?(低い声で)ジニーもおるでー」
(霊能者を叩く)
〈了〉