【ショートショート】 「逆転のスキなところ」
「まあ、八百長のうちには入らないでしょうし、お互いにやるんですからねえ」
プロ野球の両チームの選手が集められ、お偉い方から説明を受けていた。
なんでも、7回裏までは、逆転につぐ逆転のシーソーゲームを意図的にやってほしい、という注文であった。
両者の同意がなされた後、選手たちが話した。
「どんな理由があるんだか。視聴率とかの関係かねえ」
「まあ、短期集中決戦っていうことで、それまではウォーミングアップ代わりってことでいいんじゃないか?」
「野球人気を盛り上げるためにもね」
「いやあ、最近の野球は面白いな。接戦だからな。ドラマだなあ」
某大手PCメーカーの会長は、心臓を患いながらも、野球場のVIP席で野球観戦をしていた。
「あまり興奮なさると、お体に障りますが」
「なにを言うか。勝ちが決まっているようなゲームも、負け込んでいるゲームも面白くないわ。それにワシにはこれがある」
会長は腕時計を見せた。
「この会長の血圧と心拍数は、調べられるからね」
ハイテク腕時計の情報は、一部の株式トレーダーたちに筒抜けであった。
おかげでその数値に、会社の株価が連動しているのであった。
「変動がなければ、利ザヤも生まれないさ」
「これだから逆転はスキだねえ」