【ショートショート】 『バイリンガル立方体』
通訳の機械が普及していた。消音機能もついているハイテク製品で、話者の発話はカットされ、ほぼ同じ声で通訳されたものだけが相手に聞こえる。手に持てるサイズのキューブ型で、マイクロチップを手に移植した人物なら自動的に認識でき、話し手の言葉を聞き手にわかる言葉に変えてくれるのだ。
人数を二人に限定すれば、キューブは言葉の壁を完全に取り払うことができた。一家に一台あれば、どの国の人物を招いても、通訳されていることすら意識せずにすむのであった。
「海外では、キューブが作動していたため、相手が自分と違う言語を話していることにずっと気づかなかったカップルがいるらしいわ」
「そりゃ面白いね。でもキューブを使いつづければ困らないんじゃないかな」
夫婦は笑いあった。
「実は君も日本語を話さないってことはないだろうね」
「まさか」
ためしにキューブのスイッチを切ってみた。
「ほうれ、なんぬもかわらなあだぎゃあ」
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