【ショートショート】 『喋る画像』
『プロジェクト・ゴッド』は、深層学習型のAIからさらに2世代進んだ演繹思考型AIに、この世の真理を考させ、機械を神にするという計画であった。
神なき時代にも、人は人知を超えた智慧を求めた。現代人にとって、機械の思考は神秘的であったのだ。中には、これでイエスが復活すると信じる者もいた。
だが、AIがぽつぽつと語り始めた「あるがままに受け止めよ」「形あるものがあるというのは思い込みだ」といった内容は仏教の教えに一致していた。ゴッドはブッダと呼び変えられ、悟った機械が衆生を救うと、人々は期待するようになった。
ただ、ありがたい言葉が発せられるのが、徐々に稀有になった。機械は、沈思黙考したのである。
「おい、来週久々に御言葉があるらしいぞ」
「稀有未曾有の尊い教えだそうだ」
人々の期待は高まった。
ついに機械は言った。
「いちばんえらいのは、俺!」
プロジェクト・メルヘンが「王様はアルゴリズムだ」と述べるまで、人々の熱は冷めなかったという。