【ショートショート】 『人男子』
「ここにある『人男子』ってのなんですが」
祖父の遺品を整理すると『族録』なる本があった。人名と住所、職業が載っており、妙に気になってしまった。そこには祖父が世話になっていた芸能事務所の社長の名前があった。そのお孫さんにたまたま仕事で取材をする機会があったので、ついでに私はその本について訊いてみたのである。
「これは人男子ではない。にんべんに男で『侽』という字と『子』だ。常用漢字ではないから印刷できず、こういう表記になったんだ」
『侽』の字の下に私の先祖の名があり、子の下には別人の名があった。
「意味は?」
「男爵だね。隣は子爵」
「じゃあ祖父は男爵だったと?」
いちばん下とはいえ、爵位を持っていたのか。誇らしい話だ。だが彼はニヤリと笑った。
「仔羊と同じだ。にんべんがつくと、人のもの、という意味になる。位の高い人が所有するには、爵位を持たせる必要があった」
彼の会社が、男性アイドルの事務所であることを思い出した。
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