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【コント(17)】『遠回り(14)』


 
(街中のカフェで、神沢および女性と話をしている)
 
「いやー、奇遇ですな」
「あの、そこに勝手に座られても」
「いやあどうぞ遠慮なく」
「いや、そっちが遠慮してくださいって言ってるんですよ。私が先に座っていたんですから。しかし神沢さんが女性連れとは……アレ? あなたって」
(女性、長い髪で顔を隠す)
「あのー、どこかでお会いしましたねえ。ああ! 思い出しましたよ。霊能者」
(女性、ますます顔を背ける)
「あー、そうかー。あれインチキだったんでしょう。あなた、霊能者でもなんでもなくて、神沢さんの一味ですね? そもそもが仕組まれていたんでしょう」
「はて里中さん。何を言ってくれちゃってるんでしょう?」
(だまってストローで神沢をつつく)
「ああ、ちょっとやめてくださいよ」
(鼻の穴にストローで吹き込む)
「いてててっ! ちょっと入ってたオレンジジュースが鼻を刺激して……」
「これくらいの罰は受けてもらわないと」
「うおぉおぉー。くるしいぃぃぃぃいいい(途中で奇妙で甲高い、変な節をつけた悲鳴になる)」
「うるさいですよ(テーブルの下で蹴る)」
「ああ、暴力反対」
「小芝居に巻き込むの反対」
「私は芝居なんてしませんよ」
「じゃあ嘘。サギって言ってもいい」
「アートとかってどうです?」
「あなたがあれを何と呼ぶかは勝手ですが、とにかく反対です。やめてください」
「妹です」
「唐突ですね。え? 何? こちらは神沢さんの妹さんなの?」
「里中さんの妹で……(すかさずストローで鼻をつつかれる)」
「(顔をしかめ)私の妹です」
「そうですね。正直になってください。閻魔様に舌を抜かれないためにもね」
「里中さんも昔のネタを引っ張りますね」
(ストローを構えて睨む)
「あーー待った待った。文句は言いませんよ。ストロー刺しはやめてくださいよ」
「金輪際顔を合わせたくありません」
「ですが、ここは自由の国、ニッポンですから」
「自由の国ニッポンという言い方は聞いたことがありませんけれど、仮にそうでも、他人に迷惑をかけて良い自由はありませんねえ」
「いいんですか? 心の狭い人だと思われますよ?」
「あなたとつきあっていける心の広い人を見てみたいですけれど」
「私も見てみたいですなあ」
「寂しいんだったら、迷惑をかけないように友達を作ってください。それじゃあ」
「もう第二場に移るんですか? (何か取り出す)」
「わわわ! ちょっと。こんな人が大勢いるところで煙玉なんか出さないでくださいよ。今度はいったいどんなところに連れて行く気だったんですか」
「あ、やっぱ気になりますねえ?」
「期待しているわけではありません。どんなひどいめに合わせようとしているのか警戒しただけです。ダメですよ。小芝居は」
「毎度思っているんですがね。里中さん。私に、あまり無礼は働かないほうがいいですよ」
「ほう。またこけおどしですか。それともなんですか? あなたは権力のある人だとでも言うんでしょうか?」
「南町奉行所の奉行を……」
「だからそういうのもういいですから。遠山の金さんは北町奉行所だし、桜吹雪も嘘だったでしょうよ」
「いや、あれは冗談でしたが、本当にいいんですか?」
「思わせぶりに言っているだけでしょう。私を騙すことはできませんよ」
(店長が現れる。「神沢様と妹様。これは私からの、サービスでございます」と言ってドンペリをグラスに注ぐ。「お連れの方もどうぞ」と勧める)
「はあ? 店長? ああ、これはどうもありがとうございます(おそるおそるドンペリに口をつける)」
「ああ、いつも悪いね」
(店員)「いえいえ、神沢様にはいつもお世話になっております」
「え? 神沢さんって、お金持ち?」
「ふふふ?」
 

〈続く〉

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