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【コント(7)】 『遠回り(6)』

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 「嗚呼、頭が痛くなってきた」
 「(ぴょんぴょん飛び歩く)ねえ」
 「ついには地球でさえないじゃないですか」
 「ほんとに」
 「ほんとにじゃないですよ」
 「でもまあ水中で窒息する心配はなくなったわけでして」
 「酸素に関しては、今のほうがもっと深刻でしょうが!」
 「水の中じゃなくなったのに?」
 「だからここには空気さえないでしょう!」
 「でもほら、あなた海中にいたとき、浮上したがってたじゃありませんか」
 「浮上しすぎですよ! 月じゃないですか!」
 「わっがままな人だなあ。なんでもかんでもイヤイヤ言って。いったいあんたはなにが望みなんだ!」
 「荒羽駅に行きたいんですよ!」
 「ああ、そうだった」
 「そうだったじゃないですよ」
 「今回ははっきり判ります。荒羽駅は、あそこです」(地球を指す)
 「そりゃそうでしょうよ。それぐらい判ります」
 「知ってんのになぜ聞くんだ、あなたは。わっがままだなあ」
 「荒羽駅が地球にあるのは当たりでしょ。そこにどうやって行ったらいいのやら。行くまでに酸素が持つのやら」
 「(大声で)ええええ! 酸素がもたないんですか?」
 「だから、無駄に体力を使わないでください」
 「ふふふ、私にはいい考えがあります」
 「あなたの決め台詞ですね。決まってはいないけど。モノマネは禁止ですよ」
 「私はモノマネなんかしませんよ。あれは本当に取り憑いているんです」
 「宇宙にまで来てそういうこと言いますか」
 「宇宙意志とのチャネリングができそうですね。ああ、今この場に宇宙エネルギーが満ちている……」
 「まったくいろんな意味で、空虚ですね」
 「色即是空!」
 「しかしどうやったら地球に帰れるのかな」
 「あなたはロケットか何かがあると思っていますね。甘い」
 「甘いって……だとしたら帰る手段はないでしょうね。でもどうにかしてここには来たわけですから」
 「ああ、あなたはここまでロケットで来たと思っているんですか?」
 「そうじゃなきゃ来れないでしょう? UFOでもなんでも同じですよ? とにかくなんか宇宙船のようなもので来ないと、ここには来れませんよ」
 「いやいや。まだあると思いませんか? 気づかないならいいですけどね」
 「はあ? え?……もしかしてテレポーテーション?」
 「(少し考えるように)ですよね」
 「……あの、神沢さん。なんか今、本当にあなたにそのアイディアがありました?」
 「いやいやなにを言いますやら。私は最初から気付いていましたよ」
 「なににですか?」
 「え、テレ、テレ、テレーション」
 「言えないじゃないですか」
 「いやいや、そのようするにあれですよねえ。ワープですよ。ワープ」
 「まあそういう言葉もありますね。じゃあききますけれど、どういう原理でそういうのが可能なんですか?」
 「そんなのは常識でしょう」
 「なんか判らなそうですね」
 「(困惑しながら)なにを言いますか。判ってますよ。あなただって、本当はもう気付いているんでしょう」
 「そんなこと……ああ、そういえば昨年、相対性理論を応用したテレポート技術が開発されたって言ってましたね」
 「そうそうそれ! 常識でしょう?」
 「そんなものは発明されてません!」
 「ええーっ! ちょっと里中さん。あなた嘘をついたんですね」
 「あなたは嘘しかつきませんね」
 「うっ……胸が苦しい!」
 「罪悪感でなら苦しんでほしいですけれどね。仮病でしょうね」
 「な、なにを言うんですか……本当に……うっ」
 「あ、あの子剛力彩芽に似てる」
 「どこですか」
 「……」
 「ちょっと里中さん。どこに剛力彩芽なんかいるんですか。騙したんですね?ひどいじゃないですか」
 「騙すのはいけないと。ほう。なるほど、なるほど」
 「ああ、いや、その……」
 「言い訳できませんねえ」
 「どうせ私が悪いんですー(泣く)」
 「ああ、だから、泣いたら酸素を消費しますよ」
 「どうせ私は運も悪いんですよ」
 「あんまり意味が分かりませんけれど、もしかしたらですよ? 泣いているのにごめんなさいね? ツキのない男ですよ、月だけに、とか言おうとしてませんよね」
 「あああ! それ言われちゃったあああ。もう終わりだああ」
 「嘆くのはそこなんですね」
 「もう、死んでお詫びします(ヘルメットを取る)」
 「ああ!」
 「ああ、やっとウーロン茶が飲める」
 「ちょっと! 息ができるんじゃないですか!」
 「だから海の中じゃないって言ったじゃないですか」
 「この野郎!」
 「ああ、許してください!」
 「許せるか!」
 「分かりました。お詫びはたっぷりしますから!」
 「お詫び? どうしてくれるって言うんですか」
 「録画しておいたドクター倫太郎を観せてあげます」
 「そこまでしていただけるなら……って言うわけないでしょう!」
 「え? だって私が荒羽駅まで案内しなかったせいで、ドクター倫太郎、見られなかったんでしょう?」
 「そんなこと、どうだっていいよ! そもそもドクター倫太郎なんて見ていないんだから!」
 「ドクター倫太郎を観ていない? いいんですか?そんなことで」
 「それがなんだって言うんですか!」
 「ああ、ドクター倫太郎ってすごいんですよ。堺雅人がですね、蒼井優と不倫をするんですけどね」
 「は? よく知らないけれど、そういう話でしたっけ? たしか蒼井優は白塗りをするんじゃありませんでしたっけ?」
 「ドキッ!」
 「ドキッてなんですか。ちょっとあなた詳しくないんじゃないですか?」
 「(大声で)いやいやいや、里中さん。何を言ってくれちゃってるんですか。詳しくないなんてことあるわけないじゃないですか」
 「じゃあどうなるんですか」
 「先週は、そうですよ。蒼井優が胸元を下げて、おしろいを塗り出すんですよ。それで、どうなるか、ってところで「来週に続く」って」
 「はあ? そんな、それはちょっと気になりますね……」
 「ね?そうでしょう?蒼井優のおっぱいが、こう、たわわにですね、こう……」
 (男、いなくなっている)
 「……そこにペタペタ、ペタペタペタ、と……って、あれ? 里中さん? 里中さん? あああ、また一人になってしまったああ……
 (エッキーの声で)僕、エッキーだよ!
 オッケー。
 (ジニーの声で)ジニーだー。
 これもいいな。次。
 (声色1)恐怖の大王だああ。いや、これじゃエッキーと同じかな。(声色2)恐怖の大王—。ちょっと明るすぎるな。もうちょっとエスプリ効かせて。オッケー、テイクスリー!(声色3)恐怖の大王だー。これだ。恐怖の大王、恐怖の大王だああ」
 (振り向くと男がいる)
 「そうやって練習していたわけですね」
 「うわ、今のなしいー!」
 
 〈了〉

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