【コント(23)】『遠回り(20)』
「はい、私をいろんなところに連れ回していたようです。これがその証拠動画です」
「(横に座っている)ついに来てしまいましたね」
「……」
(警察官が動画を観ている)
「なかなかひどいものですな」
(警察官に、この画面の中の人は何者ですか? と聞かれる)
「正体はよくわからないんですが、たぶんお金持ちで、暇人なんでしょう。で、この人です」
「私です」
(警察官に、はあ? と言われる)
「そしてこの人が里中さん」
「さっき書類に本名を書いたからわかると思いますが、私の名前は里中でもないんです。時系列に沿ってお話ししましょう。ことの発端は、私が月出町を迷っていたときでした。電車に乗りたかったのですが、昔の地図を見てしまって、荒羽駅というところに行こうとしたんです。ですが見つかりません。実はもう存在しない駅だから当たり前ですね。通りを行く人に聞いても知らないと言われる。そこで出会ったのがこの、神沢さんという人ですよ。案内をしてくれようとはするんですが、さっぱりと要領を得ない話しかたをするんです。ですがそれはほんの始まりに過ぎませんでした。その後も変装して私の前に現れるし、この動画でもわかるようにどうやら私に麻酔をかけて拉致するんです。それで山の中だの、砂漠だのに連れて行かれていろいろとさまよわされるんです」
「里中さん、その説明はちょっと問題がありますなあ」
「嘘は言っていません。動画もあるでしょう」
「ウーロン茶をあげたり、クイズを出してあげたりもしているでしょう」
「ウーロン茶をもらったことはありません。そんなことはどうでもいいですけれども。また、これまたどうでもいいですけれども、つまらないクイズとかにつき合わされるのは本当です」
「それだけじゃありませんよ。刑事さん。私のお友達である、山の神とか、恐怖の大王にも会わせてあげているんです。あと、フランスの大統領とか」
「あのー、フランスの大統領には本当に会ったんですよねえ」
「でも里中さんはノリが悪くて、大統領が寛大な方でよかったですけれどね」
(警察官が首をかしげ、ちょっとと言って席をはずす)
「あれから調べたけれど、日仏でアメリカを攻撃する国際ニュースはなかったから、やっぱりあれも嘘だろうな。神沢さん、さてはそっくりさんを用意しましたね」
「てへへ」
「てへへじゃありませんから。あなたを逮捕してもらいますよ」
「まあそんな固いことは言わずに」
「私は本当に怒っているんです。麻酔まで使うなんてとんでもないことですよ。刑務所に行ってください」
「あ、今度は刑務所ですか。わかりました。そちらでお会いしましょう」
「刑務所ごっこじゃありません。あなただけが行くんです」
「今度はあなたが私に麻酔をかけて、手下に手荒く拉致せて、着せ替えまでして現場まで連れて行くって言うんですか」
「違います。っていうか、今犯行の手順をすっかり自分で言ってしまいましたねえ。どうしてこういうときに警察の人は席を外しちゃうんだろう」
「里中さん、なに頼みます? やっぱりカツ丼ですか」
「また急に話題を変えて。あのねえ、取調べでカツ丼って、今どき刑事ドラマでもそんなベタなシーンありませんよ。それにあなたは取り調べを受けるでしょうけれども、私は取り調べを受けているわけじゃありませんからね」
「(立ち上がって勝手に机の向こう側に回る)里中。お前、田舎はどこだ。そうか北海道か。北海道は寒いだろうなあ。おふくろさんが今頃田舎で、手袋でも編んでいるんだろうなあ」
「勝手にそっちに回って。そんなことしても知りませんよ。それに私は北海道出身でもありません」
(二人の警察官が入ってくる)
「うむ、ご苦労」
「ええ? この人たちももしかして?」
(新しく入ってきたほうの警察官が首をかしげ、神沢に、あなただれですか? と問う)
「新入り。俺がボス沢だ」
「あーあー。警察官相手に小芝居を始めちゃったあ。しらないぞー」
(警察官二人が顔を見合わせる。扉のほうに合図をすると、大勢の警官が入ってくる)
「あわわわ」
(ふたりとも手錠がかけられる)
「ちょっと、どうして僕まで逮捕されるんですか。いったいなんの罪で!」
(警察官の一人が、十四時三十五分。身柄を拘束しました、と言う)
〈続く〉