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【短編小説】 微かな恐怖 1月の孤独

 誰と一緒にいても、孤独、という時がある。

 どうして世の中はこんなに寂しいんだろう、と、嘆息をつかずにはいられない。
 2000年の1月、私は奇妙な精神状態に陥っていた。街にショッピングに出かけても、家族と食事をしていても、恋人と会っている時でさえも、私はいつもやりきれないほどの孤独を感じていた。

 自分が本当に「生きている」という、実感が湧かない。例えば、他人の人生を、他人の体を借りて、仮に、または試みに生きさせてもらっている、という感覚だ。少なくとも自分自身の生命力を使って、「生」というものを、一分一秒ごとに感じながら生きている、という感じではない……。

 私は、近ごろ本当に、無力感にさいなまれている。自分にできることは何か、それを見つけられないで、ただ自分の殻に閉じこもってばかりで、無為な時間を過ごしている。

 いったい私の中で、何が起こったというのだろう? 考えることと言えば、ネガティブなことばかり、ここから逃げ出したい、とか、何もせずに、毎日を過ごしていたい、とか……。

 生活の中に、「活力」というものをまったく見出せない。私自身にとっても勿論のこと、周りの人たちにとっても、私のことを煙たく思うことで、精神的な負担を少なからずかけている、と思わざるを得ない。

 勿論、やむにやまれぬ事情がある。今の私の家庭環境のことだ。母は一年ほど前に大病を患い、まだ家族が面倒を見る必要がある。
 だが、それすらも、私は最近まともにやっていない。自分でもびっくりするくらい、母に対して冷たくなった。父に対しては、言うに及ばず、だ。
 父は、最近の不景気で商売が上手くいかなくなったことを気に病んでいるようで、近ごろ酒量が増えた。そして、はたから見ているのも気分が悪いくらいに酔っては、大声でわけのわからないことを喋り、その翌朝には、何も覚えていないといった有様だ。そういうことが、もう何度もあった。私はそれが嫌で嫌でたまらないのだ。
 姉は、家庭のことを非常によくやってくれている。そして、私が何もしないと言って叱る。叱られることについては、ごもっともだ、と思うのだが(つまり私が悪い)、どうしても姉の言うことを聞いて家事に協力しようという気になれない。

 なぜなのか?

 それが、私にはわからないのだ。
 多分、いつかの時点で、私の中で「たが」のようなものがはずれてしまったのだろう。それは、よほど重大なものだったに違いない。なぜなら、それを失ってしまったからといって、喪失感さえも、私は感じないのだから……。

 幼いころからずっとあった考え方が、違うものに変わってしまった。
 
 私は私自身の人生を考える時、これで良かったのだと思う。しかし、被害者は誰?
 母だろうか、あるいは父? それとも、両親のどちらとも? 彼らは、私の考え方が彼らの期待していたものとは異なってしまったことに、気づいているのだろうか? そして、密かに傷ついているのだろうか……?
 でも、もし今私が何もかもに妥協したら、ここで私という人格は終わってしまうと思う。そして、後に残るのは、抜け殻のような、自分を持たない人間、一生人の言うことに従ってしか生きられない操り人形のような人間だ。私にはわかっている。今がとても大切な時期だということを……。
 
 時々、私の考え方は、非常に極端だと言う人がいる。姉しかり、友だちしかり。
 彼らは、直接にそれを言うわけではないが、
「そこまで考えなくても……」
 という言い方で、私の行き過ぎを指摘する。

 そこで、私ははっとする。

 試しに、努めてお気楽に生きるように心がけてみた時期もある。でも、私がそれをすると、希薄で、中身の無い、薄っぺらな人間にしか人には映らないようだった。そして、誰よりも私自身がそれにおぞけ、、、を感じていた。
 実は、つい最近、半年前までぐらいは、私はそういう状態だったのだ。そういう無理を、しなければ良かったとは思うけれども、容赦無く時は流れ、今の自分がある。時間だけは、取り戻しようがないのだ……。

 今、私は自分を本当に愚かな人間だと感じている。今自分の成している所行のすべてに、情けなさと、自分らしくなさを感じる。それは状況がそうさせたのか、それとも、いよいよ自分の本性が現れてきているからなのか、わからないが……。

 とにかく、今私が自分自身について、一番強く感じているのは、自分がまったく取るに足らない人間で、誰にも思いやりを持てず、誰からも愛されることを拒否していて、その癖誰かから強く愛されたいと願ってやまない、無気力で、浅薄せんぱくな、これ以上はないと言っていいくらい、自分勝手な人間だ、ということだ。
 
 どうしてこんな風になってしまったのだろう。私はいつまでもこんなままなのだろうか。

 いつか、自分のやりたいことをやれば、つまり自由な身になれば、心は晴れるのだろうか?

 もし、その時になっても、心が晴れなかったら?

 それを考えると、とても恐ろしいのだ。

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