【怪談】 地元のおばあさんに聞いた話
これは、私の地元にいる知り合いの
おばあさんが聞かせてくれた話です
とても頭のいい、記憶力のいい人で、
会うたびに色んな不思議な話をしてくれます
あまり怖くはないかもしれませんが、
確かに不思議な話です
最後まで読んでいただければ幸いです
おばあさんは話してくれました
忘れもしない、平成23年11月某日
船着き場でふらついて、海に落ちた
そこには調理したあとの魚の骨や内臓を捨てに来ていて、いつも足下をちゃんと見て、危なくないか確かめながら捨てていたのに、その日は
「何か、招かれたような感じで」
ふーっと海に落ちてしまった
気がついたらもう海の中だった
一度沈み、また浮かんだ
「いっぺんでも泳いだら助かるけど、泳がんかったら沈んで助からん」
おばあさんは言いました
私の地元では、昔からそう言われているのだそうです
咄嗟に係留している船のロープにつかまって、小一時間もの間、船の名前を言って
「助けてください、助けてください」
と呼び続けていました
そのとき、ちょうど次男が通りかかって、
見つけてもらうことができたそうです
次男に聞けば、その日友人と飲みに行く約束をしていたが、なぜかわからないけど「何かダルいな」という具合で行かずに帰ってきたとのこと
さらに、パチンコで当たったか何かの景品を車からバイクに積み替えていたのだそうです
いつもならその辺を通りがかってもす~っと通り過ぎてしまうのに、
その日はなぜかその場でしばらく時間を過ごしていた
その偶然が重なって、海の方から聞こえてくる母の声に気づいたのでした
海にはまって助けを求めている母を見て慌てた次男は、「誰か呼んでくる」と言ってその場を去りそうになりましたが、
おばあさんは「そうしてる間に私はもうまた沈む」と言い、
手を持って引っ張り上げてもらったそうです
服が海水を含んで重たくなっており、引き上げるにはかなりの力が要ったそうですが、次男が踏ん張って何とか成功しました
11月の中旬、寒い最中だったにもかかわらず、特にどうということもなかったので家に帰り、その晩はそのまま何ごともなく過ごしたそうです
翌日、嫁が孫を連れて来て、話を聞いて「病院に行った方がいいんじゃない?」と言ったので病院に行ったら、
途端にひどい吐き下し
それまでは本当に全く何ともなかったのに、不思議でならなかったそうです
でも、後で考えたら……
おばあさんは言いました
以前集落内の知り合いのおばあさんが海に身を投げて自殺したことがあり、
その現場が、ちょうど直線上の対岸だったことを思い出したそうです
「招かれたのかもしれない」 とおばあさんは言っていました
確かに水に落ちたときは、フワ~ッとめまいのようなものはしたけれど、
何かに引っ張られる力のようなものを感じたのだそうです
気の毒なことですが、実はそのとき助けてくれた次男も、長男も、もう亡くなってしまってこの世にいません
もうひとつ、死んだ兄が話しかけてきた
という話があります
ある朝、寝床の中でウトウトしていると、夢うつつの間に兄の声が聞こえた
もう何年も前に死んだはずの兄が、妙にリアルに話しかけてくる
おばあさんはその前の数日間、具合が悪かったそうです
「サネ子よい、まだこっちに来るな、まだそっちにおって周りの人に色々してやらな……」
目を覚ましたら、不思議に元気に起きれたのだそうです
「私はあのとき、死にかけていたんやろうなあ……」
とおばあさんは笑って言いました
更にもうひとつ、
おばあさんが子供の頃、病院の前にはドブ川が流れていたのですが、
その川になぜか落ちてしまったのだそうです
スポン、とドブに足がはまってどうしても抜けなかった
あれこれふんばっても全然抜けず、「もうここで死ぬんだ」と思った
でもまさにその瞬間でした
足がスポッと抜けたのだそうです
あんなに抜こうとしても抜けなかったのに
これは不思議だった、とおばあさんは首をひねっていました
その他にも、船から海に落ちたこともある
そのときは周りに人がいっぱいいたので無事だった
何ともよく色んなところに落ちるおばあさん、
今年元気に85歳です