SANUKI ReMIXインタビュー「手袋」
ダイコープロダクトは、「想像」を「創造」するものづくり企業として1963年に創業。
バッグと手袋、二刀流の縫製工場として歴史を刻んできました。
スポーツ・アウトドア用や特殊作業用などに特化して独自性の強いアイテムを強化しつつ、次世代まで続く企業としての力をつけるための若手職人の育成、縫製と素材の知識、技術を培ってきた職人など人財を大切にしている会社です。
―まずは、ご自身のことについて話を伺いたいのですが?
小さい頃から手袋は身近な存在。祖父の代から周囲が手袋やバッグ、衣類、木材など商売をしていたので、自然と後を継ぐのだろうという思いがありました。もちろん会社のトップになるということは、血縁だけでなれるものではありませんが、子供の頃に思いがあったのは確かです。
―ダイコープロダクトに入社するきっかけは何だったんでしょうか?
東京の大学を卒業後アパレルへ就職。繊維関係の業種は考えていましたが、就職氷河期ということもあり、スポーツメーカーは断念。東京の生活が10年の節目を迎えるころ、都会でこのまま仕事を続けるよりも地元に戻って何かできないかと考えるようになりました。
―戻ってからは順調でしたか?
会社に入って20年余りたちましたが、入社当初は営業企画でした。ただ、3年ぐらいは仕事が取れない状態で、どうやって商品を売り込むのか、お客さんと知り合えばよいのかわかりませんでした。自社ブランドもないので、展示会に出て新規開拓をすることもなく、自分の給料すら稼げていないと感じる時期が続きました。
そんな中、アパレル時代にお世話になった方の助けがあったり、2006年に会社のHPを立ち上げたりしていくことで、少しずつ自分の理想とするお客様に出会えるようになっていきました。
―自社ブランドへの取り組みもされていますよね?
最初の自社ブランドは消防隊員・消防団員に向けた手袋でした。きっかけは、ある社員の思いつきから。素材の知識・調達のノウハウなどを強みに現場で実際に使ってもらってヒアリングをしながら作り上げていきました。
(BULLRESCUE)他にも、機能美と装飾美を意識したデザイン、スライドパーツが持ち味のStairs design productsやメンズグローブブランドSoH、特殊作業用グローブDK.WORKSなどがあります。
―代表取締役になってからはいかがですか?
代表取締役就任は2016年。それでも、現場に入るということも大切にしています。商品開発やサンプルづくり、カタログに起こす、縫製までやることもあります。
―大切にしていることは何でしょうか?
人の部分では、先から物事を考える、約束したことを守るなどの「7つの考動指針」を念頭において行動することを意識するようにしています。人ありきの仕事。社員に支えられているからこそ、成長のある場にしていきたいです。超ベテランから10代までの幅広い世代が働く環境で、技術を継承して、事業を続けていける体制も整えたいと考えています。
モノとしては、「平面」を「立体」に仕上げていくモノづくり。お客様が望んでいるものを、プロとしてアドバイスしながら形にしていくことです。ヒアリングすることでお客様のイメージと実際の製品がイコールにできなければなりません。もちろん、納期・値段など条件もクリアにしていくため、スケジュール管理も大切な要素です。
今回参加した「SANUKI ReMIX」について
―参加を打診された時はどう思いましたか?
これまでのモリローさんとのタッグから思いを汲み取れるのは自分だと迷いはありませんでした。手袋に注目してもらえるのはいい機会でもありますし、指名されるのは光栄でした。ただ、全体像が見えていなかった部分はあります。
―マッチングイベントの日はどんな気持ちで臨みましたか?
まだどうなるか決まっていない状態でした。直前に打ち合わせをしたのですが具体的には何も決まらず少し焦る気持ちもありました。プロダクトが生み出せるまでの期間が短く不安だったのだと思います。
―平尾さんのとのやりとりはいかがでしたか?
平尾さんのことは聞いていましたし、会ってみてしゃべりやすい人だと感じました。まずは手袋について素材や機能など知ってもらうことから始めました。盆栽パフォーマンスでは手袋をしないということだったので、どういうものを作るかを探す作業からでした。ワークグローブの顔をしていない普段使いできるワークグローブはどうだろうとか、持ち運ぶ作業が多いので小指と薬指のグリップ力が欲しいなど意見が出てきました。
タウンユース、使えば使うほど味が出るものがよいということだったので、天然繊維。でも皮だけだと面白くないというところから、平尾さんの出身徳島の「藍」も候補にあがってきました。ただ、天然染料は価格・色落ちの面で不向き。模索していたところ、児島のデニムを思いついたんです。
―いろいろなやり取りを経て、やっとデザインに辿り着いた感じでしょうか?
過程として、素材決めをしてデザインに起こしました。素材からインスピレーションが沸いてくることも多いです。偶然なのか必然なのか、瀬戸内素材での完成となったのもよかった点です。ワークグローブはフィット感を重視しなければならないこともあり、スペックを組み込むことでこだわりも増えました。
最後に加わったのが、ステッチプリントのデザインです。出来上がりがおとなしすぎる印象があったので、デニムがステッチやプリントでブランドを象徴する感覚を取り入れて、インパクトを与えたいと考えました。そのおかげで「変化」や「驚き」を与えてくれる存在になりました。SoHのアイデンティティーである三角のデザインが両手を合わせて完成する仕組みです。人間が自然に立った時の手の角度を考慮し、正面からアートワークが見えるようにしたのもポイントの1つです。
―完成したときはどんなお気持ちでしたか?
最終のデザインが決まったのはプロダクト発表の10日前だったので、単純に間に合ってよかったという気持ちが大きかったです。ワークという手袋としての完成度はある程度満足できるものができましたし、機能もふんだんに盛り込んでいます。あとはお客様が使ってみての感想が耳に入ってくることで、初めて納得というか満足を感じられるかもしれません、生み出しても不安はあります。
―会場の展示ブースはいかがでしたか?
「商品」から「作品」に昇華させてくれていると感じましたし、驚きもありました。黒を基調としたカッコいい空間の中で浮かび上がる「手袋」に演出の効果を感じました。
作品タイトル、成(Sei)は、新しいことを成し遂げるときに、ともにあるグローブです。
―SANUKI ReMIXを終えて今どんなお気持ちですか?
普段の仕事では交わるはずのない人と一緒に商品を生み出す、またとない機会でした。今までに聞いたことがない要望もあったので、新鮮であり難しくもありました。ただ、どこまで平尾さんのイメージを再現できているのか最後まで不安も感じていました。
―この取り組みについてはどう感じていますか?
きっかけになりうると思います。異業種のヒトともっと交わってみたくなりました。ミスマッチングのマッチングは消費者の心を動かす1つの要素になるのではないでしょうか。ただ、生み出したのはあくまでも「アート」ではなく「プロダクト」。ここから、スタートです。イベントをきっかけに、多くの人が使う価値のあるプロダクトになって、ビジネスとしての成功へつながり、職人が自ら手を上げるイベントになっていくことを期待したいです。
―今、伝えたいことはありますか?
手袋をはめてみてほしいです。ワークグローブには、見ただけではわからないフィット感、手袋が呼吸する感覚、手の保護機能など様々な配慮がしっかり存在していることを体感してほしいです。
―今後の目標を教えていただけますか?
会社としては創立100年を迎えられる企業にしたいです。モノづくりは継続こそ力なり。次の世代にバトンを渡していく覚悟を持って取り組みたいと思います。そのためには、得意ジャンルでの製造に関するあらゆることを磨き、オリジナリティを発信しながら作り続けていくことが大切だと考えています。何より、時流を考え使う人に価値だと思ってもらえる、共感が得られることをイメージしながら、モノを創造していきたいです。