逃げ場のない結婚式のスピーチ、あの日私がした選択とは?
「頼むから、スピーチやってくれよ!」
友人の結婚式一週間前、
私は新郎からの電話に凍りついた。
あの大勢の人前で
話さなければならない、
逃げ場のない結婚式のスピーチ。
社交不安障害の私にとって、
それは拷問にも等しい。
「ごめん、ちょっと・・・」
と断ろうとした瞬間、
電話の向こうから聞こえてきたのは、
新郎の真剣な声だった。
「お前しかいないんだ、頼む!」
断る理由が見つからない。
あの時、私は
「わかった」
と答えるしかなかった。
当日、会場は
華やかな雰囲気に包まれ、
幸せそうな新郎新婦の姿があった。
私の心は
どんよりと曇り、
冷や汗が止まらない。
心臓はバクバクと高鳴り、
まるで檻に閉じ込められた
鳥のようだった。
スピーチの順番が
近づいてくる。
息苦しくなり、
足が震える。
頭の中は真っ白で、
用意した原稿の内容なんて、
完全に消えてしまっていた。
「えー、ご結婚おめでとうございます・・・」
震える声で、
なんとかスピーチを始めたものの、
言葉が途切れてしまう。
喉は締め付けられるように苦しく、
視線は定まらない。
会場の視線が、
まるで無数の矢のように私を射抜く。
「新郎とは、中学の頃からの・・・」
そこで、私の思考は停止した。
何も言葉が出てこない。
沈黙。。。。。
会場の空気が重くなる。
私は、まるで
公開処刑にかけられた
罪人のようだった。
次の瞬間、
私はマイクを握りしめた。
そして、力なく頭を下げ、
一言だけ呟いた。
「すみません・・・」
会場は静まり返った。
新郎の顔は、
困惑と落胆の色に染まっていた。
私は、その場から
逃げるように会場を後にした。
あの日の私は、
スピーチを最後まで
やり遂げることができなかった。
逃げてしまったのだ。
社交不安障害の私は、
またしても「敗北者」という
烙印を自分に押してしまった。
でも、
今ならこう思える。
あの日、
私は自分なりに戦ったのだと。
そして、
逃げるという「選択」をしたことも、
決して間違ってはいなかったのだと。
なぜなら、
私は自分自身を壊さないように
守ったのだから。
社交不安障害は、
簡単に克服できるものではない。
それでも、私たちは
自分らしく生きていく道を選べる。
無理をする必要はない。
逃げてもいい。
自分のペースで、
少しずつ前に進んでいけばいいのだ。
あの日、
結婚式のスピーチから
逃げ出した私。
でも、
それは決して
「終わり」ではない。
私は、
これからも自分と向き合い、
自分らしく生きていく。