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恋猫と シロクマ文芸部


ねこは・・・


上へ上へ   【861字】  

 恋猫と出かけた。
 遊園地なんて行かないよ。山に登るのも、海を見ることもしない。ぼくたちが好きなのは螺旋階段なんだ。

 知らないところを見つけた。扉は閉まっていたけれど、僕たちにはへっちゃらだった。
 2人で跳ねるように登っていった。一息ついて外を見ると、見たこともない景色だった。遠くには海が見えた。穏やかな海は魚の鱗のように光っていた。
 君がニャンと言ったので、僕もニャンと応えた。君のヒゲはとってもチャーミングだ。

 しばらく登って外を見ると、今度は山が見えた。たたなづく青垣とはよく言ったもんだ。幾重にも並ぶ山は奥になるほど淡い青になる。淡い青はやがて空に溶けていった。
 君に応えて、今度もニャンと言った。君の毛並みは青垣のように美しい。

 しばらく登って、今度は階段の内側を見た。そこにあるのは打ち捨てられた巻き貝の残骸だった。悲しいほどに続く朽ちた螺旋は過去の遺物、僕の歴史だった。
 君は何も言わなかった。僕はそんな君の瞳の中に未来を見たような気がした。それで僕は上を見てみたんだ。螺旋は美しい海のように、続く山並みのようにどこまでも輝いていた。

 僕はまた登り始めた。どこまでもつづく階段を。
 すると白い靄の中に入った。
 何も見えない。
 僕は耳を澄ました。
 僕は何をしてきたんだろう。戦うこともせず、奪うこともしなかったけれど、何を得ることもなかった。公園の集会に参加したこともあったけれど、何も言えなかった。僕は流されるままに従った。スーパーのゴミ袋を漁る仲間たちをただ見ているだけだった。

 僕はさらに登った。
 やがて靄は明け、広い屋上に出た。はるか彼方まで見渡せるその広さは、空以外に喩えるものがない。
 僕はどこから登り始めたのか、いつ登り始めたのかを思い出そうとした。君にどこで出会ったのかを。しかしそれはあまりにも遠くてはっきりとは見えなかった。
 太陽だけがやたらと反射していた。

 僕は君を見た。
 君にも見えるかい?
 僕の呼ぶ声が聞こえるかい?
 僕はどことも知れぬところを歩き始めた。どことも知れぬところに向かって。
    了

*「恋猫」とは盛りのついた雄猫のことなのだそうですが、ジェンダレスなこの時代、なんとでもなりませう
ありがとうございます♪

あんまり高く飛んじゃいない


小牧部長さま
よろしくお願いいたします



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