![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173410768/rectangle_large_type_2_18ab6f3230e174232b40b00e5e7b33a6.jpeg?width=1200)
恋猫と シロクマ文芸部
![](https://assets.st-note.com/img/1738849559-JMHhIzbmc6wX9CgySkoZvjG3.png)
上へ上へ 【861字】
恋猫と出かけた。
遊園地なんて行かないよ。山に登るのも、海を見ることもしない。ぼくたちが好きなのは螺旋階段なんだ。
知らないところを見つけた。扉は閉まっていたけれど、僕たちにはへっちゃらだった。
2人で跳ねるように登っていった。一息ついて外を見ると、見たこともない景色だった。遠くには海が見えた。穏やかな海は魚の鱗のように光っていた。
君がニャンと言ったので、僕もニャンと応えた。君のヒゲはとってもチャーミングだ。
しばらく登って外を見ると、今度は山が見えた。たたなづく青垣とはよく言ったもんだ。幾重にも並ぶ山は奥になるほど淡い青になる。淡い青はやがて空に溶けていった。
君に応えて、今度もニャンと言った。君の毛並みは青垣のように美しい。
しばらく登って、今度は階段の内側を見た。そこにあるのは打ち捨てられた巻き貝の残骸だった。悲しいほどに続く朽ちた螺旋は過去の遺物、僕の歴史だった。
君は何も言わなかった。僕はそんな君の瞳の中に未来を見たような気がした。それで僕は上を見てみたんだ。螺旋は美しい海のように、続く山並みのようにどこまでも輝いていた。
僕はまた登り始めた。どこまでもつづく階段を。
すると白い靄の中に入った。
何も見えない。
僕は耳を澄ました。
僕は何をしてきたんだろう。戦うこともせず、奪うこともしなかったけれど、何を得ることもなかった。公園の集会に参加したこともあったけれど、何も言えなかった。僕は流されるままに従った。スーパーのゴミ袋を漁る仲間たちをただ見ているだけだった。
僕はさらに登った。
やがて靄は明け、広い屋上に出た。はるか彼方まで見渡せるその広さは、空以外に喩えるものがない。
僕はどこから登り始めたのか、いつ登り始めたのかを思い出そうとした。君にどこで出会ったのかを。しかしそれはあまりにも遠くてはっきりとは見えなかった。
太陽だけがやたらと反射していた。
僕は君を見た。
君にも見えるかい?
僕の呼ぶ声が聞こえるかい?
僕はどことも知れぬところを歩き始めた。どことも知れぬところに向かって。
了
*「恋猫」とは盛りのついた雄猫のことなのだそうですが、ジェンダレスなこの時代、なんとでもなりませう
ありがとうございます♪
![](https://assets.st-note.com/img/1738849296-vlguy8VnfUFTcZYoQbzC0WDR.png)
小牧部長さま
よろしくお願いいたします