夏の夜の幻影 シロクマ文芸部
山のドアを開けると男と女がいた。女が立ち上がろうとするのを男が右手で制した。
男は立ち上がってフォークと何やら香辛料らしきものを手に戻ってきた。
女はフォークを手にして微笑んだ。なんとも魅力的な微笑だ。
調味料は何だったのだろう。思い出せない。テーブルの上には皮をカリカリに焼いた分厚いサーモンのステーキ。それとクリームシチューかクラムチャウダー。ここに何を足す?そんな拘りはなかった気がする。暮らしの中ですり減ってしまったのだろうか。
結婚前の光景だった。彼女は、そして私はここで何を見つけたのだろう。
月のドアを開けると、学校の教室だった。何年生かはわからないが、小学校の高学年のようだ。テストの答案がかえってきて、少年は項垂れている。どうやら結果は思わしくなかったらしい。
教師に声をかけられて、少年は背筋を正す。
ああ、思い出した。この時、発想がおもしろいと言われたのだった。答えは間違っていてもそれでいいんだ。そう思ったのだ。
私の学習意欲はここが端緒だった。
これが死ぬ直前に見るという走馬灯なのだろうか。
了
小牧部長さま
よろしくお願いいたします。